実録:1980年代、『ばばされ』はこうして子ども達の間で語られていた

青色豆乳

実録:1980年代、『ばばされ』はこうして子ども達の間で語られていた

 最近、私(青色豆乳)がネットに怪談を投稿してる話を知人にしたら、体験談を教えてくれた。1980年代ごろに成立したといわれる(ヤフーニュースに書いてあった)怪談、『ばばされ』の話だと言う。彼女の年齢から計算すると、ちょうど1980年ごろの話だ。

 私は非常に興味がわいた。


「『ばばされ』って知ってる?私、あれに遭ったことがあるの」

 そう言って、彼女は語り出した。


 ――――


 1980年代初頭。私は小学生だった。


 夏休みに、二泊三日の塾の合宿があって、系列の教室から子どもたちが集められた。場所は、スキーで有名な高原地帯だった。

 オフシーズンだから宿は静かで、周囲は深い森と広い空に囲まれていた。

 違う校区の子と遊ぶと、ただの鬼ごっこでも、ルールが微妙に違って新鮮だった。


 最初の夜、同じ部屋になった女の子たちと、怪談を語り合った。 あの頃、なぜか怖い話が好きだった。


 一人の子の順番がきて話しだした。


 話の中身はあまり覚えていない。大人になってから本で読んだり、テレビで視た話と同じような感じだったと思う。


「この話を聞いた夜に、眠れずに起きていると鎌を持った老女が来る。呪文を唱えないと鎌で首を切られる。」

 と、その子は言った。


「眠れなかった子のところに、すーっと入ってきてね、無言で近づいてくるの。で、呪文を唱えなきゃ、首を……」

 その場は「うそー」「怖すぎ」と、悲鳴混じりの笑いが起きた。


「呪文、なんて言うの?」

「『ばやされ』。意味はわかんない。でも、それを三回唱えれば助かるんだって。絶対忘れちゃだめだよ」


 その夜は、みんな怖くなって、布団をぴったり引っ付けて、手をつないで眠った。

 何も起きなかった。老女は現れず、笑いながら朝を迎えた。


 キャンプファイヤーも終わり、いよいよ明日で帰る。もう会えない子もいるね――と語り合いながら眠りについた。


 深夜。

 眠っていた私は、トイレに行きたくなって目が覚めた。布団の中で、何故寝る前にトイレに行かなかったのか後悔してグズグズしていると、


 ドン!ドン!ドン!


 突然、重くて鈍い音が部屋のドアを叩いた。

 心臓が跳ねた。


 部屋のドアにはすりガラスがあり、廊下の灯りでぼんやりと向こう側が見える。


 人影は……ない。

 なのに、


 ドン!ドン!ドン!


 もう一度、音がした。


 私は凍りついた。まさか。あの話を思い出す。

 震える声で――恐怖のあまり、喉が固まって、声を出すことはできなかった。ただ、頭の中であの呪文を唱えた。


「ばやされ、ばやされ、ばやされ――」


 何度も、何度も、祈るように。あんなに怖く感じていたのに、私はいつの間にか眠っていた。


 朝。他の子に話しても、「ぐっすり寝てたよ」「そんな音、聞かなかった」と言われた。

 それでも、私は確かにあの音を聞いた。ドアを、何かが――何者かが叩いていた。


 合宿も終わり、しばらくして、『ばやされ』が『婆去れ』だったことに気がついた。

 呪文、間違えてたんだ。


 あの時、一緒に怪談を聞いた友達に、その事を話したけれど、誰もこの話をした子が誰か覚えていなかった。


 だから多分、遠くから来た子だったんだろうと思うんだけど。


 ――――


 彼女はそう言って話を締めくくった。


 ――――


 晩酌をしている夫に、この話をした。夫は、宇宙人は信じているが、幽霊の類は信じていないのだ。というか、見た事がないから信じていないだけで、いるなら見てみたい、と常々言っている。


「ふーん。ところでママさ、その話、誰に聞いたの?」

「え?」

「その人、たぶん50代半ばくらいだろ?ボッチのママにそんな友達いるの?」


 夫は不思議そうに私を見た。

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