第2話 実家へ

1時間に1本しかない電車に揺られながらラキは祖父が待つタマミ村へ向かっていた。タマミ村は、山奥にある村だ。昔は、それなりに人は住んでいたが今はラキの祖父しか住んでいない。所謂ぽつんと一軒家状態だ。山を抜ければ、ジョーミヤ町がありタマミ村の人々はそこに移り住んで行ったのだ。ジョーミヤ町の町長はやり手で色々な制度を作り出し国で2番目に発展している町である。


「ジョーミヤ町到着!」

ラキが電車から降りると駅員のムラタが驚いた声をあげた。


「ラキじゃないか! まっまさか、魔法学園を退学になったのか!」


「はっ? ちげーよ。爺ちゃんに呼ばれたの!」


「なんだ。そうだったのか。今日は、爺さんの所の配達日だからマエダ商店に行けばトラックに乗せてもらえると思うぞ」


「お! めっちゃラッキーじゃん! あんがと。ムラタのおじさん」

ラキは、ムラタに手を振りながらマエダ商店へ向かった。



◇◇

「ラキ君!? まさか、退学!?」


「ちげーよ。爺ちゃん所に来たんだよ!」


「そうなのかい。おばちゃんちょっとびっくりしちゃったよ。もうすぐ出るところだから一緒に乗りな。ラキ君は相変わらず運が良いね~」


「だろ? おばちゃんあんがとう!」

ラキは、トラックに乗り込んだ。


「1年ぶりよね。昔は、長期休みとか帰ってきてたわよね」


「2年生の冬ぐらいから課題多くなってさ……3年生になると進学やら就職やらでまじ大変。みんな忙しくなったんだよな。俺は、就職でこのまま魔法学園の先生の助手みたいなことする事になってる」


「あら。それはすごいじゃない!」


「だろ?」


「ラキ君が、魔法学園に入学して心配だったけどちゃんと仕事に付けそうでおばちゃん嬉しいわ」


「へへへ」


「まだ、時間かかるし寝てて良いわよ。電車じゃ眠れなかったでしょ? 最近物騒なのよね~。電車で居眠りしてたらお金や荷物が取られる事件が多発してるのよ」


「そうなのか。でも、確かに駅に張り紙結構貼ってあったし電車も車掌さんからも気を付けるように言われたなぁ」


「運が良いラキ君は、遭遇しないかもしれないけどね」


「まぁな。じゃあ、俺は少し寝るよ。」


「そうしときな」

ラキは、眠りについた。


◇◇

「もうすぐ着くわよ」

おばちゃんの声でラキは目を覚ました。見慣れた光景が視界に入ってくる。

長い坂を抜け大きな門を潜りぬける。昔ながらの瓦の一軒家が姿を現した。

おばちゃんが、華麗にトラックを駐車しラキは車から飛び降りると1年ぶりの実家に到着した。勢いよく玄関の扉を開ける。


「爺ちゃん。帰ったよー」


「おう。お帰り。ラキ」


「ただいまー!」

ラキは、荷物を玄関に置くとすぐさま荷台の荷物を運び出した。

「マエダさんもいつもすみません」


「いえいえ。 こちらこそ、割高な輸送費とか頂いてますし」


「最近の町はどうですか? 何かありました?」


「最近は、物騒ですよ。才能性の政治に良く思っていない人たちが何か団体を作っているとか居ないとか……シチロウさんの所まではそういう人は来ないでしょうけど気を付けてくださいね」


「そうですか。それは恐ろしいですね」


「シチソウさんもジョーミヤに移住されませんか? うち余っている貸家ありますよ」


「いやいや。妻と娘が眠るこの家からどうしても離れたくはないんですわ」


「……そうですか。では、十分気を付けてくださいね」


「ありがとうございます」


「ラキ君、荷物運びありがとう。おばちゃんは帰るわね」


「おう。おばちゃんもあんがとな!」


おばちゃは、ラキ家を後にした。


「さて、ラキ。お腹が減っただろう。肉の南蛮漬けを作ったよ」


「爺ちゃん、それ俺の好きなやつ!!」

肉の南蛮漬けは、この国に伝わる伝統的な料理である。挙げた肉を甘酢にひたした料理である。これにピクルスや卵を混ぜたマヨネーズをかけて食べるとさらに美味しい。ラキは、食事をしながら学園生活について話をした。


「ラキは、そのまま学園で仕事をすることに納得はしているのかい?おそらく、雑用を任されるんじゃないかと爺ちゃんは思うのだが……」


「俺は、納得しているよ。俺には、魔法の才能しかなかったしその才能もめちゃくちゃ最低ランクで正直、爺ちゃんみたいな野菜を育てたり米作ったりの才能があれば手伝えたのになとは思うけど仕事があるだけラッキーじゃん」


「そうか。それならよい。じゃが、爺ちゃんは栽培の才能はないぞ?」


「え!? そうなの?」


「おお。爺ちゃんは、爺ちゃんのお父さんや爺ちゃんたちから習ってなんとなく作っているだけじゃからな。ほれ。このキュウリ形が悪いじゃろ?」

市場に出回っている整ったきゅうりに比べると確かにいびつな形をしている。


「でも、味は変わらないよ?」


「その通り。形は違っても味は同じ。才能と言うが、鍛錬すればなんだって出来るんじゃよ。まぁ……魔法やらは別かもしれんがな」


「そっか。じゃあ、爺ちゃんの才能って何なんだ?」


「……今日は、その話をしようと思っていたんじゃ」


見たことがない神妙な顔をした祖父にラキは少し驚いた。

ラキは、食事を終えると祖父に連れられて離れの倉庫に向かった。

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