第1話

ー魔法学園高等部3-C組にて

「おっ! ラッキーじゃん。また補習かよ?」


「おう! 魔法化学で赤点取っちまってな!」


「あれ、難しかったよな。俺も赤点ギリギリ。まっ頑張れよ」


「おう!」


ラキは、大きく手を振り二人を見送った。そして、眉間にしわを寄せながら難しそうな本を読み始めた。唸りながら、補習課題のレポートとにらめっこしている。


「なぁ、あいつ誰? ラッキーって?」


「ああ。ラキ・サエグサ。寮で同じ部屋なんだよ。で、あいつめっちゃ運が良いし名前もラキだから、あだ名がラッキー」


「なるほどな。って運が良いってもしかして幸運の属性持ち? めっちゃレアじゃん!」


「いいや。成績表見せてもらったんだけど、魔力値は10」


「魔力値10って才能なしじゃん! なんで魔法学園に来たんだよ」


「学力も料理も運動も芸術も騎士としての才能がなくて仕方なくここに入ったらしい……」


「まじかよ。そんなやつ居るの?」


「俺も驚いたけど今までの成績表見せてもらったからマジなんだよな。因みに、運が良いのは体質らしいよ。偶にいるらしい」


「じゃあ、ここ卒業したらどこ就職するんだろう」


「魔法系の雑務とか?」


「なんか、不憫すぎるな……」


「でも、俺たちラッキーの事言ってられないぜ。来週の魔術人形ドールの授業で上手く出来なかったら学校卒業出来ねぇからな。座学だけやっとけば良いラッキーがちょっと羨ましいぜ」


西暦3472年。世界は、才能重視の世界となっていた。

産まれてからあらゆるテストを受け一番能力が高い才能を伸ばすといった考えだ。

学力に長けていれば、学力だけを伸ばす。運動神経に才能があればその能力を伸ばし将来は騎士団などに入り国を守る仕事をする。その結果、世界は急成長した。


しかし、その考えはおかしいと異議を唱える国もある。過激な集団も少なくはない。


ラキ・サエグサは、そんな時代に生まれた。母親は、亡くなり父親は世界中で仕事をしておりほぼ居ない。最後に会ったのは5、6歳ぐらいの時だっただろうか。そのため、田舎の祖父に15歳まで育てられた。16歳になると高度な技術を学ぶために才能にあった学校へ入学する。ラキは、中学まで田舎の少人数の学校で学んでいたが一番才能があった魔法学園に入学することになった。入学が決まった際は、魔法学園で混乱が起きた。


ー魔力値10!?前代未聞です。


ーしかし、他の才能はなし。何かに振り分けなくてはならない。


ーそれはそうですけど……。


ー学力は普通だから座学だけを学んでもらおう。


ーそうですね。魔法を使わない魔法の仕事も沢山ありますしね


余談だが、学力値100あり普通。学力の才は150以上ないと才能有りとは認められないのだ。

『馬鹿は、政治に携わらせてはいけない』はIQ300の総理大臣の名言である。


「あー。わっかんねー。魔法あんまり使えないのに魔法の構造とか理解できねぇよ!でも、このレポート完成させないと明日爺ちゃん家帰れないしなぁ~頑張らないと!」


座学をひたすらすること3年。ラキは、卒業する学年へと進級した。3年間数値は10のまま上がることはなかった。


「お困りかな?」


「ツバキ!」

ツバキ・ヒムロは、魔法学園の3年生で生徒会長だ。生徒会長は、この学園で最強の魔術師である。


「うわぁ~。これ大学レベルじゃないですかぁ!」


「まじかよ!だから、難しかったのか……。シラヌイ~助けて~」

シラヌイは、ツバキの魔術人形ドールである。長い黒髪に赤い瞳。東洋の着物を着こんでいる。


この世界の魔術師は、一般的に魔術人形を操る魔術を使用する。魔術師は、精霊と契約をする。その精霊を魔術人形を媒介にして宿らせるのだ。より強い精霊と契約することが出来れば国から最高の身体ボディを与えられる。より強い精霊と契約出来るのはごく少人数で大体は低級精霊と契約し量産型の身体ボディが支給される。


「承知いたしましたぁ! お手伝いしてあげますよ。 ツバキの数少ない友人の1人ですからね」


「おいおい。シラヌイ。辛辣すぎない? 僕は、訓練が忙しくて友人が出来ないだけだよ」


「はいはい。分かってますよ」


ー1時間後



「よっしゃぁぁ!! 出来た!!! シラヌイありがとう」


「ラキの癖も頭に入っていますからね! ラキが書きそうな稚拙な文章にもなっていますので先生はバレませんよ!」

シラヌイが、にっこりと笑う。


「辛辣~。てか、シラヌイ。その髪飾り変えた? てか、着物の柄も変わってる?」


「今更ですか? そんなんじゃモテませんよ? 髪飾りは、ツバキが作ってくれて着物のデザインもツバキが考えてくれました!」


「すげー!! ツバキって物作るの上手いよな! 俺が破いた制服とかも直してくれるし」


「ありがとう。昔から、作ることは好きだけど……この程度じゃ才能なし判断なんだよな……」


「そうか? すげーと思うけどなぁ~。でも、この世界じゃ才能有るかないかで分けられるもんな。その方が、楽で良いのかもしれねぇけど楽しくはないよな……」


「そうだね……。さて、シラヌイ。そろそろ訓練の時間だ。行こうか」

ツバキは、寂しげな顔をした。


「はーい。じゃあまったね。」


「おー! ありがとうな!」

ーシラヌイ、めっちゃカスタムしてるからモノづくりの才能もすげーと思うけど世知辛い世の中だよな……。


ラキは、レポートを提出し寮へ帰った。

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