第4話
源影政は、源頼義の側近にして、智勇兼備の武士として知られていた。頼義の任期満了を迎える頃、陸奥国の情勢は不穏さを増していた。安倍頼時との戦が再び始まると、「安倍頼時追討令」が発せられ、影政はただちに軍備を整え、奥州への出陣に備えた。
影政は関東武士団を束ねる一翼を担い、地元の豪族との交渉役も務めた。その中で彼は、安倍氏と内通している疑いのある者たちの動向を密かに探っていた。
やがて、平永衡が安倍氏に内応しているという噂が流れ、影政は頼義にその情報を進言した。これがきっかけで、頼義は永衡を斬殺する決断を下したとも言われている。
一方、藤原経清が安倍軍へ寝返ったのも、影政の進言によって疑念を抱かれ、立場を危うくした結果だったという説も残る。影政は経清とかつて親交があったため、その変節に大きな衝撃を受けた。
こうして、源影政は表舞台に姿を現すことは少なかったが、戦局の裏で重要な役割を果たしていたのである。
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風を裂くように駆け抜けた武士——源頼義の始まり
平安の世、血潮たぎる武門の家に、ひとりの少年が生まれた。名は源頼義。河内源氏の嫡流として、武家の魂をその身に宿し、彼の眼はすでに遠く戦の地平を見据えていた。
幼き日から剣を握り、矢を放ち、父・源頼信の背を追っては戦場の風を肌で感じた。火のような気性、冷たい刃のような判断力——そのすべてが、のちの東国平定の礎となる。
時は流れ、乱世が牙をむく。平忠常の乱が勃発。若き頼義は父と共に戦陣へと身を投じる。矢が飛び交い、命が紙のように散る中、頼義は一歩も退かず、敵を圧倒する。名は一気に関東中へ轟いた。
だが、それはほんの序章にすぎなかった。真の嵐は、前九年の役——陸奥の安倍氏との壮絶な戦い。戦乱の東北を馬で駆け、仲間を鼓舞し、敵を討つ。頼義の一太刀は雷鳴の如く、戦の流れを変えていった。
生まれ落ちたその瞬間から、頼義は走り続けた。武門の誇りを胸に、戦乱の時代を貫く一条の矢のように——
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陸奥の地に冷たい風が吹きすさぶ中、源頼義の軍は着実に進軍を続けていた。安倍頼時との全面衝突は避けられぬ運命となり、軍勢は岩手川を越え、深い山間へと足を踏み入れてゆく。
その背後には、静かに戦局を見つめる男がいた。源影政である。彼は戦場には現れずとも、各地の兵糧の調達、間者の運用、地元豪族の懐柔など、戦に欠かせぬ要を担っていた。なかでも注目すべきは、戦略眼に優れ、敵の動きを先読みして頼義に進言を重ねたことだ。
安倍頼時の軍は堅牢な防衛線を敷き、地の利を活かしたゲリラ戦を展開していた。が、影政はその布陣の隙を見抜き、頼義に夜襲を提案する。天の時、地の利、人の和——三つを見事に捉えた策により、頼義軍は一時劣勢を覆し、大勝を収めた。
だが勝利の代償もまた大きかった。戦乱の影は藤原経清をも飲み込み、かつて影政と語らい合った友は、敵軍の将としてその前に立ちはだかる。「なぜ、経清……」——影政の胸を裂いたのは、剣ではなく、友を失う悲しみだった。
やがて、安倍頼時の戦死が報じられ、戦は終息へと向かう。長きにわたる戦いは東国の歴史を塗り替え、源頼義の名は武家の英雄として語り継がれることになる。
影政はその後、表舞台から姿を消した。だが、彼の名は密やかに語られ続けた。戦の裏にあって、静かに火を灯し、風を読んだ影の将として。
——武士とは、ただ剣を振るう者ではない。知をもって戦を制す者こそ、真の武士なのだと、源影政はその背で語っていた。
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