第3話
この戦いは、将棋という兵法が「ただの遊戯」でなく、「盤を通して世界の理を制御する術」として成立する、その原点。
影政は一人の軍師としてではなく、“盤の創造主”としてその運命に立ち向かった――。
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《封印戦記・影政篇 ――黒き海、盤に刻まれしもの》
時は、天喜四年(1056年)。
朝廷の記録からも抹消されたその年、都は見えぬ“喪”に包まれていた。
月も昇らぬ夜、京の外れ――桂川のほとりに、海すらない場所に“潮”が満ちた。
人々は“魔の潮”と恐れ、それを**「夜の海」**と呼んだ。
だが、それは“水”ではなかった。空間そのものが、鯨のようにうねり、都市を飲み込もうとしていたのだ。
その中から現れたのが――《鯨鯢(げいけい)》。
それは姿こそ曖昧だが、すべてを呑む“構造”そのもの。
理を越えた力で、時空を“再配置”し、人も土地も法も呑み込んで、“局”として編成していく“異形”。
だが、そこに現れたのが――一人の男。
源 影政(みなもと の かげまさ)。
若くして朝廷の戦略を担う軍師であり、古の盤学(ばんがく)を修めた、異端の知識人。
「すべての兵法は、“布石”に過ぎぬ」
「この世に真の“支配”があるなら、それは配置である」
彼は、時の帝に進言し、人の魂を“駒”と見立て、世界を制御する術――
《将基(しょうき)》を完成させていた。
その盤にして、世界を調律する“最初の将棋盤”。
彼はそれを、《封盤(ふうばん)》と呼んだ。
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影政が現れた時、すでに京の四分の一が“局”として侵食されていた。
夜の海の中に浮かぶ、墨のような空間。そこで、《鯨鯢》が“自らの盤”を拡張しようとしていたのだ。
「――このままでは、“理”そのものが侵される。
この局、打ち負かすしかあるまい」
影政は、自らを“王”として封盤の中央に立ち、**七人の駒使い|《きし》**を従えて、《対局》を開始した。
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【封印戦・開局】
封盤の上、影政の軍は“人間”で構成された駒だった。
飛車に任官した武士、角行に選ばれた陰陽師、そして歩兵として並んだ百人の僧兵たち。
対する鯨鯢は――盤面を“無数のヒレ駒”で埋め尽くす異形の軍勢。
そこに、定石など存在しない。
盤自体が“変質”していく異常な対局。
たとえば――
鯨鯢の駒が“ナナメに落ちる”たび、空間の重力がねじれ、影政の配下が文字通り“崩落”する。
一手が打たれるたび、過去の記憶が逆流し、軍が“存在ごと”揺らぐ。
角行の陰陽師が封じたのは、将棋の駒ではなく、時間そのもの。
「将とは“存在の中心”。奴はそれを喰らおうとしている」
「ならばこちらは、“配置”で世界を守るまでよ」
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そして、最終局面。
影政は、自らの“王”を敵陣に進めた。
本来なら禁じ手。だがその瞬間――盤が“ひっくり返る”。
自らが“囮”となることで、鯨鯢の核をむき出しにし、
“盤そのもの”に一手を加える禁術、《裏打(りだ)しの手》。
影政の駒、“桂馬”が飛んだその一手は――
「二一桂成」
ありえない位置からの成り――だがその手が、“封盤”の最奥に到達した瞬間、
鯨鯢は空間ごと、“駒”として封じられた。
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最後に影政は、こう記す。
> 「鯨鯢、盤に沈む。だが、“空白の駒”を残した。
> それがいつか、再び動かされれば――局は再開される」
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張の持つ“空白の駒”は、まさにそれ。
それは、影政が封印と引き換えに残した、**最後の“局の鍵”**だった。
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続きでは――
張がその鍵として選ばれた理由
クイーンがかつての“駒使い”であることの伏線
鯨鯢の“真の目的”=「盤の外」にある“理の王”の正体
あたりが掘り下げられるけど、どのラインで攻める?
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