死ねない
餓鬼から食糧を取った日の夜もあの悪夢を俺は見ていた。
飛び起きた反動で眠っていた木から落ちそうになったが、なんとかバランスを取り、その場に留まった。
悪夢を見た後は絶叫が漏れてしまう。まだ俺が隊にいたときは叫んでしまうたび、上官にぶたれていた。今はそんなことにならないのが、せめてもの救いだ。
仰向けになり、もう一度眠りに就こうとした。だが、だめだった。妙に目が冴えてしまった。
俺は夜空に自分の手をかざし、ひらひらさせてみた。
「なんともないんだよな」
仲間が全滅し、俺自身も死にかけていたはずなのになぜか体に大きな傷は残っていなかった。まさかあの娘が介抱してくれたのか? だとしてもこの治り方はおかしい。
「まぁどうでもいいか」
とろんと頭を満たし始めた眠気に身を任せようとしたとき、遠吠えが響き渡った。
「マズッ」
気付いた時にはもうすでに野良犬の群れが木の下に集まり、吠えていた。赤い目を爛々と光らせ、唾液を垂らしていた。
こいつらは、元ペットの犬たちが戦争の混乱で逃げ出し、野生化したものだ。木の上で寝ていれば、襲われないと考えていた。事実、ここまで上がってきはしない。だが、この木の周囲はすっかり奴らに囲まれた。
「多過ぎだろ」
これでは地面に降りて逃げることもままならない。
そう考えているうちにも、その数はどんどん増える。
隣の木に移ってもついてくるだけ。銃で威嚇しようにも、敵に見つかるかもしれない。更にまずい。いや、今俺は脱走兵だ。味方に見つかれば、見せしめで殺される。捕虜の方がマシなくらいだ。
「こんな四面楚歌なことってあるか?」
周りを見渡している内、別の鳴き声が混ざってきていることに気がついた。猿だ。この木で待ち続けるのも不可能になった。
「マジで、詰んだ」
最後の賭けだ。一帯を焼き払う事にした。軍服に残ったマッチボックスを取り出した。思ったよりも軽い。箱から取り出しだが1本目は落としてしまった。手が震えていた。猿の鳴き声が近い。マッチの残りはもう1本。
「つけ、つけ……あ」
折れた。
「クソッ!」
俺は空になったマッチボックスを近くに迫る猿の影に投げつけたが、虚しく犬の大群に飲まれた。それを見たとき、頭の中にある記憶が蘇ってきた。
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