死にたい

「ねえ、なんで私を殺したの」

 振り向くと、あの銀髪がいた。

「ねえ」

 俺は悪くない。

 そもそもお前がナイフなんて出さなければ、こんなことにはならなかった。


「おい、なぜ俺たちを見捨てた?」

 違う。死んだお前たちの分まで俺は生きなきゃいけないんだ。


「×××××××××××××××?」

 うるさい。お前らが来なければ、俺はお前らを殺す必要なんてなかった。お前らが、望んだことだ。お前らが、向かってきたんだから。


 耳を塞ぎ、うずくまる。それでも亡霊の声は止まない。

 何かが背に泥のようにのしかかる。

 彼らは混ざり、もう何者でもない、何かになっても彼に囁き続ける。

「返せ」

 返せ? 違う。それだけは断じて。俺は奪われた。俺が被害者だ。

「返せ」

 泥は俺を飲み込んでいく。

「返せ」

 嫌だ。これは俺のものだ。違う。

「返せ」


「……さん、お兄さん」

 泥の中に弟がいた。

 あぁ、生きていたんだ。もう、お前がいれば何も……

「お兄さん。僕もう、疲れたよ」 

 やめろ。まだ、負けてない。まだ、お兄さんは戦っているんだぞ。お前が負けてどうするんだ?

「お兄さん、もういいよ。帰ってこないでも」

 弟が遠のく。

 行くな。行かないでくれ。

 弟の肩を掴む。無理やり振り向かせると、みるみる弟は銀髪になり、あの娘になった。

 返せ。弟を返せ。

「あぁ、そうか。僕はお兄さんのものだったんだね」

 そうだ。いや,違――

 あの娘の肩から弟が生えていた。ゴポゴポと泡を立てながら別の奴らも生えていく。

「返せ。返せ。返せ……」

 分裂し切らない奴らの塊は俺へ一斉に喰らいついた。


 あぁ、また、この夢か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る