出発

 自分の手には鮮やかな赤に染まった石が握られていた。

 始めに抱いたのは高揚感。次は罪悪感と虚無感。

 耳の近くで聞こえていた心音は徐々に収まっていく。スルスルと、心臓が自分の持ち場に戻り始めたようだった。

「終わった。終わった。お仕事完了!」

 森に人殺しの空元気が響く。

 凶器を放り出し、その女の子からナイフを奪い取って軍服のポケットに仕舞った。死体から服を剥ぎ取ると、どうやって隠していたのだろう、装填された拳銃と弾薬がいくつか出て来た。もちろん、全てもらっていく。

 死体はそのままに、彼女が抱えていた非常食や水筒を出来る限り、少女のものとおぼしきリュックに詰め込んだ。

 最後の戦闘地に戻ることも考えたが、味方を見つけることができる可能性よりも、残留している敵に見つかる可能性の方が高いから、やめにした。

「じゃあな、クソ餓鬼」

 返事はない。

「ありがとな」

 使い道のなさそうな、こいつの着ていたのボロ布だけ、置いていくことにする。

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