生きるために

「起きた」

 目覚めると、あの白髪の少女が立っていた。髪は腰まで伸びている。逆光でよく見えないが、着ているのは軍服を裂いて作ったボロ切れのようだ。そこから覗く四肢は所々汚れているものの、新品の包帯より白かった。

 とてとてと、その子は俺の近くに寄ってきた。手には我が隊の非常食や水筒が抱えられている。

「くれるのか?」

「えー、いやだよ」

 くれないのかよ。

 でも肩を落としている場合じゃない。これがないと、この森の中で生きていけない。なぜか、頭は冴えていた。

「その食料を渡せ」

「え、しつこい。ほんとにむり」

 やっぱりクソ餓鬼はクソ餓鬼だ。

「ハハッ。俺もだよ」

「お兄さんはだいじょぶだよ。ほれ」

 少女はおもむろに後ろに手を回した。その手に握られていたのはナイフだった。

「っ!」

 俺は飛び退いた。

 ぐにゃりと僅かに腐葉土が沈む。

 驚いたわけじゃない。ここじゃ、こういうこともある。

「もー。動かないで。すぐ終わるから」

 余計、無理だろ。

 少女はジリジリと距離を詰める。

 俺は後ずさりながら、周囲の状況を探る。太陽の傾き方から見るに、我が隊が全滅してから時間はそこまで経ってない。場所も近い。あの滝の音がするからだ。敵、味方に遭遇しなければ、1、2カ月で家に帰れるはず。食料があれば、いける。

 俺は覚悟を決めた。殺す。そして、帰る。

「待て。話そう」

 少女は止まった。だが、まだ遠い。

「渡せなんて言って悪かった。ちっと、分けてほしいんだ」

 嘘だった。あいつが持っている分、全部ないと2カ月は持たない。仲間がいないと猪も狩れないから仕方がない。仕方がないのだ。

「なあ、頼むよ。この通り」

 俺は土下座をする。これで僅かに近づいた。

 少女がため息をつき、一歩、歩み寄る。まだだ。かさり、かさり小さな足が枯れ葉を踏む。

「お兄さん、私はほんとに――」

 今だ。

 俺は地面にあった石を手に取り、振りかぶった。


 ご


 何度か

 ご、ご、ご


 何度も

 ごごごご、ばきっ


 無意識に瞑っていた目を開けると、その子はもう動かなくなっていた。

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