人魚の子

雨笠 心音

生きたい

「あっ、いきてる」

 白髪の少女が近づいてくる。

「つんつん……。 えいっ」

 数度、銃口らしきもので俺の頬を突いた後、指で摘んで俺の鼻の穴を塞いだ。

 苦しい。死ぬ。

「うん、しぬね」

 死ぬ。本当に死ぬ。

「わぁ。ふふっ。虫の息なのに、意外と保つね」

 殺すぞ。

「えー。やめてよ」

 死ね。

「お兄さん? おーい」

 やばい。クソ餓鬼が弟に見えてきた。これが走馬灯ってやつか。


 お兄さん。これ、お兄さんの似顔絵!

 お兄さん。見て。射撃訓練の成績、1位でした!

 お兄さん。戦地でも頑張ってください!

 お兄さん。頑張らないでいいから、帰って来てね。


 うん。って言っちまったな。

 帰りたかったな。

 ごめん。まじで。

 死にたくねーな。

「まったく、それを早く言いなよ」

 ハハッ。ほんとにな。この戦場で何してたんだろうな。帰りたかっただけなのに。殺して、殺して、殺されて。でも、今日でそれも終わ――

「しにたいの? いきたいの?」

「生きたい」

 意識が途切れる間際、最後に聞こえたのは、そう呟いた自分の声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る