最終話:エピローグ

「ニュクス!」


 アルマの声に、ニュクスが振り向く。――ブレザーの制服姿。もっと違和感があるかと思ったが、思った以上に似合っていた。


「アルマ! ……今日から学校だ、緊張する」


 いつもの困り眉でニュクスは笑う。でも、俯いてはいない。紅潮した頬が緩んでいる。楽しみなんだろう。


「うん。……一緒にいこ。何があっても、わたしが守るから」


 戦いが終わり、様々な事後処理はあるようだが、ひとまず街には平和が戻った。アルマとニュクスについては街を救ったことで偉い人から様々な報酬を貰い、、合わせてニュクスが学校に通える許可もあった。そして、本日が初めての登校となる。


 ――正直、アルマは心配だった。アルマの通う女学校は入学審査が厳しく、規律もきちんとしているので、表立ってのいじめなどはない。だが、アルマが魔力がないことで拒絶されたように、集団においてはどうしても偏見は生まれる。特に、ニュクスは、魔族の姿をしているから。


(――嫌がらせがないとは言えない)


 アルマの様子から何かを察したのか、ニュクスは微笑む。


「大丈夫だよアルマ。何があっても、私にはアルマがいるから」


 ――その強さに、胸を撃たれた。


 初めて会ったころ、世界のあらゆるものに怯えていた少女は、もういない。


「うん。よし、行こう!」


 アルマとニュクスは手を繋ぎ、学校へと向かう。


 ――その途中、たくさんの人に声を掛けられた。この街を救ってくれてありがとう、と何度もお礼を言われた。そのたびに、ニュクスはとても嬉しそうだった。


 少なくともこの街に、魔族の差別はもうないのかもしれない。


◆◇◆◇◆◇


「――初めまして、ニュクスです!」


 ひっくり返りそうな、大きな声。たった一人、教壇の前に立ち、初めてのクラスメイト達に挨拶をするその姿は、素敵だった。姿かたちは、自分たちと少し違うけど、そんなことは関係ないとアルマは改めて思い知る。


 休み時間。無視や、何らかの敵対行動を心配したが何もない。それどころか、ニュクスはクラスメイト達に囲まれ、質問攻めにあっていた。たまに助けを求めるようにアルマの方を見るが、笑顔で頑張れ、と促す。――学生生活とはこういうものだから、彼女にはぜひそれを満喫してもらいたい。


「アルマさん」


 声を掛けてきたのは、クエストの戦いの時、スタジアムに応援しに来てくれていた少女だった。


「あ。――あの時、ありがとね。心強かった」


 きっと彼女はアルマのことを嫌っているだろう。でも、あの時聞こえた声援は、何より心強かったから、アルマは少女に笑いかけた。


「……ごめんなさい。私、あなたに何度もひどい態度を取った」


 少女は頭を下げる。――これで、何もかも帳消しになるわけではない。傷ついた気持ちは、消えはしないのだ。けれど。


「――わかってくれたなら、いいよ。ニュクスとも、仲良くしてくれると嬉しい」


 自然と、そんな言葉が出てきた。人は、誰でも間違えるのだ。許されるかどうかはわからないけれど、少なくとも今声を掛けてくれたことが、アルマにはうれしかった。


「……うん。ありがとう。アルマさん。私たちを助けてくれて。ニュクスさんにも、あとで直接伝えるわ。今は――とても忙しそうだから」


 クラスメイトに囲まれ、赤面しながら角を撫でられているニュクスの様子を見て、アルマは思わず、少女と顔を見合わせて笑った。


◆◇◆◇◆◇


「学校、どうだった?」


 下校中、アルマが問うとニュクスは笑う。


「本当に、楽しかった。ありがとうアルマ」


「ん? わたしは何にもしてないよ。今日頑張ったのはニュクスじゃん」


 アルマの言葉に、ニュクスは首を振る。


「ううん。あの日、あの時、この場所で、あなたが私の手を引いてくれなかったら――」


 アルマは、思い出した。ニュクスの出逢ったのが下校中のこの場所だったことを。


「――今の私は、ないから。アルマ、私を見つけてくれて、ありがとう」


「こちらこそ。ニュクスがいたから、私は、辛かった思い出が一つなくなったよ」


 魔力がないことを気にしないように生きてきたけど、辛いこともあった。でもニュクスと出会って、自分の価値を知ることができた。何かを持たないことで、手に入るものがあるとわかった。


「じゃあお互いに、出逢って良かったんだね」


「もちろん! ニュクスはもちろんだけど、セオドアさんとか、ルキナさんとか、ファロスさんにも、会えてよかった」


「今はみんな色々後処理で忙しいって言ってたね、シャロームさんも手伝ってるって」


「落ち着いたらまたみんなで会いたいね。月子さんも」


「あ、そういえば月子さん今度のライブチケット、送ってくれたらしいよ。一緒にいこ」


「マジ! やったぁ! 楽しみ―! ……あーほんと、人生って楽しいね」


「うん。……私はこれまでずっと辛かったけど、今は毎日楽しい。さいこーって感じ」


 二人で笑いながら歩いているとき、アルマがふと立ち止まった。


「……あ、そうだ、今のうちに撮影しとかないと。制服で」


「あぁ、そっか。えーっと、じゃ、そこの公園でいいかな?」


「うん。おっけ。準備しよー」


 アルマとニュクスは、住宅街にあるちょっとした公園に、撮影用のカメラを設置した。


「もうわたしたちが戦う必要はないけどさ。魔力がなくて、困ってる人、まだまだいると思うんだよね」


「うん。それに――魔族と人間は、まだまだ仲良くなれると思う」


「だから、そんな人たちが、少しでも生きやすくなるように」


 アルマは、カメラの撮影ボタンを押した。


『せーの』


「アルマ!」


「ニュクス!」


『二人合わせて―、ノマギアでーす!』


 ノマギアの活動は、これからも続いていく。


 ――世界を、少しだけ、幸せにするために。





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これにて『No Magia!』完結となります。

読んでくださった方、本当にありがとうございました。


もしこの物語を面白いと感じた方がいたら

いいね、★、感想など貰えると嬉しいです。


ではまた、次回作でお会いしましょう。


※さすがにタイトルがわかりづらかったので、完結後に変更しました


2025/09/06 里予木一









 


 


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No Magia! 里予木一 @shitosama

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