第26話:もしも何もできなくても

 クエスがいると思しき方向へ向け、アルマとニュクスは走る。機械兵士を打倒しつつ、敵陣の奥深くまで。


「方向は合ってるかな!?」


「わからないけど……敵戦力が厚いのはこっちだから、多分――アルマ!」


 ニュクスが突然叫び、アルマを突き飛ばした。


「ニュクス!?」


 アルマが声を上げたと同時、先ほどまで彼女がいた場所に光弾が撃ち込まれ、爆発を起こした。


「……機械人形が、二機」


 ニュクスの視線は上空に。男性型、女性型の機械人形が一機ずつ、上空から銃を構え、二人を狙っていた。


◆◇◆◇◆◇


 シャロームは空中からクエスを探していた。機械兵士はリーダー格の二機をセオドア、ルキナが打倒したことで統制が取れなくなっており、シャローム配下の兵士と冒険者たちで何とか対処ができている状況だ。それよりも早々にクエスを抑えることがこの戦闘における最重要手だと彼女は理解していた。


「……その気になれば、彼女一人で戦局を変えることも可能ですもの。せめて位置は補足しておかないと」


 この戦場において、レーダーは役に立たない。クエスによって阻害されているからだ。目視で確認するしかないのだが……。


「……おかしいですわね、見当たらない。まさか、ステルス迷彩でも起動させているのかしら」


 機械人形同士でステルスはほとんど意味をなさないはずだが、クエスは最新の試作機である。シャロームの持つデータだけでは測れない。


「ん? アレは……クエス配下の機械人形。確かラムダとシータ、といったかしら。アルマ達を狙っているのね。ひとまず援護に入りましょう」


 シャロームが遠くにいる機械人形達へ向けて方向転換をしたその瞬間。視界にノイズが走った。そして。


「――旧式のセンサーだな。アップグレードしたほうがいいぞ」


 後ろから、がしりと両肩を掴まれた。


「クエス!? やはり、隠れてたんですのね……卑怯な」


「少し姿を消していただけだ。気づかない貴様が悪い。だから――こうなる」


 ふわりと浮かぶ、黒髪の少女。クエスは四肢のないその姿で悠然と微笑む。そして――。


「――――あ」


 シャロームの両腕が、根元からもぎ取られた。


◆◇◆◇◆◇


「くっそー、ダメだ、これじゃ消耗するだけ!」


 アルマは叫びながら、機械人形の狙撃を躱す。だが、その度『心力』が消耗していく。その上まだクエスも発見できていない。


『だれか、クエスさん、見つけましたか?』


 ニュクスが無線で呼びかける。


『まだ発見報告はありませんが――シャロームさんと連絡が取れなくなっています。クエスによるジャミングを受けている可能性が』


『えっ、ってことは、交戦中かもってこと?』


『可能性はあります。少なくとも近くにいることは間違いない』


『だったら、速く援護しないと……でも』


 ニュクスは言葉を切り、上空からこちらに狙いを定める機械人形を見上げた。間断ない攻撃により、上空へ狙いをつけることもままならない。


「――奥の手、使うか」


 アルマは呟く。


「うん。シャロームさんが心配だし、ここで止まってる時間はないね」


 アルマとニュクスは背負っていたバックパックをした。『タラリア』と名付けられたこの心核礼装は、重力制御と推進装置を兼ねており、飛行及び高速移動を可能とする、機械人形との戦闘を想定して造られた。ただし、突貫で作られたため欠点もある。


「心力の消耗が激しい……急がないと」


「速攻で片付けよう。――行くよ!」


 2人は重力から解き放たれ、空に舞う。空中での姿勢制御、推力の調整、攻撃など諸々の動作。地上での戦いとは全く異なり、最初はまともに飛行することも困難だった。だが、シャロームとの訓練の結果、機械人形との戦闘が可能なレベルまで達している。


「当たって!」


 ニュクスが『アルテミス』から複数の矢を放つ。機械人形たちが銃撃でソレを相殺するが、その合間にアルマは敵二人に向けて特攻した。


「うりゃあああああー!!!!」


 アルマは『グラム』を振りかぶり、敵の頭上から振り下ろす。男性型の機械人形が、機械で形造られた剣で受けた。


 端正な顔立ちをした、金髪の男性。表情は、まったく変わらない。クエスやエクスと比べても明らかに表情の制御をしていないように見える。


「あなた、名前は!?」


 切り結びながら、アルマは問う。


「……ラムダ」


「わたしはアルマ! あなたを――倒す!」


 アルマがラムダと斬り結んでいる間、ニュクスはもう一体の機械人形と戦っていた。名乗りを聞く限り、そちらはシータというらしい。銀髪の女性型人形で、同じく表情に乏しい。両者遠距離主体なので激しい撃ち合いが繰り広げられている。


「くっそ……! 知ってたけど、強い……!」


 剣をぶつけあうたび、『心力』がどんどん消費されていく。早く倒さなければと焦りが生まれる。シャロームは無事だろうか。戦局は大丈夫だろうか。


「はぁ……くそ……」


 ニュクスも攻めあぐねているのが見える。機械人形たちも時間稼ぎを目的としているようだ。無理な攻撃はせず、こちらを釘付けにする行動をとっている。


「このままじゃ……どうしよう。どうしよう。わたしたち、結局何にもできてない……!」


 これは訓練ではない。規模は小さくとも戦争であり、一つのミスが多くの死を招く。視聴者の応援があればなんとかなると思っていたが、それが失われただけでここまで不安になってしまうんだと、アルマは改めて自分の立場を実感した。


 ――あぁ、わたしたち、誰も救えずに、終わっちゃう。


 アルマもニュクスも、焦りからパニックになりかけていたその時。


『アルマさん、ニュクスさん、大丈夫ですか?』


 無線から、声が聞こえた。


『ファロスさん。ご、ごめん、報告遅れた。機械人形と交戦してて……』


 とりあえず、状況を伝えられたことにアルマは少し安心する。連絡を忘れるくらい、内心焦っていたということなのだろう。


『なるほど。すぐに倒せそうですか?』


『いえ……相手は時間稼ぎをしているようで、ちょっと時間がかかりそうです。でも、何とかしないとシャロームさんが……』


『大丈夫です。少し落ち着いて。まずお二人は『心力』を回復する手段が失われていますし、今そこで戦闘を続けるのは得策ではありません』


『じゃあ、どうしたらいいの?』


『『心力』に関しては手段を準備中です。少し時間がかかりそうなので、お二人は引き続きクエスの捜索を。目の前にいる二体の機械人形に関しては――』


 ファロスはそこで言葉を切った。そして。


「――私が、相手をしましょう」


 アルマとニュクスのすぐ後方、空中に、スーツ姿のファロスが現れた。




 




 

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