第21話:もしも打ち上げをしたら

『かんぱーい!』


 武道館から少し離れた、高級そうな店の個室。今日の出演者、関係者で今日のイベントの打ち上げをしていた。さすがに天乃月子は多忙のため帰ったが、代わりにセオドアとルキナが後で合流することになっている。


「お二人ともお疲れ様でした。それぞれ良い動きでしたが……特にニュクスさんの最後の一撃は素晴らしかったですね」


 ビールを手にしたファロスの言葉に、アルマもを大きく頷く。


「アレすごかったねー、威力もだし、軌跡が虹になってて綺麗だった」


「無我夢中だったから……倒せてよかった」


「――でも、アレはやっぱり反則じゃありませんこと? 声援を力に変えるなんて……わたくしにもできるのかしら?」


「……………」


 アルマとニュクスは発言者を睨みつけるようにじっと見つめた。ちなみに手に持っているのは、ビールの大ジョッキである。


「ん? なんですの? あぁ、お嬢様がビールなんてはしたない、ということですわね?」


「ちがーう! なんでいるの! 当たり前のように!」


 アルマがついに突っ込みを入れた。あまりにも自然に合流していたのでニュクス達はなんとなく触れられなかったのだ。


「あら。大舞台で戦ったライバルに対して冷たいんじゃありません?」


「……それは、そうかも」


 確かに、彼女がいたからあのイベントは盛り上がったのだから、打ち上げに呼ぶこと自体はおかしくはない、とニュクスは思いなおす。


「いや、違うでしょ。だって……あんたたち、敵じゃないの? わたしたちの。エクスとかいうやつは人類滅ぼすぜーって感じだったし」


 アルマの言葉にニュクスは先日の会話を思い出す。


「アルマ。でもシャロームさんはちょっと雰囲気が違うって話もしてたよ」


「あぁ、そういえば……別件かも、だっけ。でも、人類に敵対してるのは同じなのかなと思ったんだけど、どうなの? そこはっきりしないと一緒にうぇーいとはできないよ」


 シャロームはきょとん、という音が聞こえそうな表情をしたのち、ファロスに向き直る。


「ちょっとファロスさん。あなたお二人に何にも伝えてないんですの?」


「ええ。今回のイベント時点では、下手に印象を変えないほうが盛り上がると思ったので。――二人とも、腹芸が得意そうにも見えませんしね」


「……まぁ、それはそうですわね」


 二人の会話に疑問符を浮かべるアルマとニュクス。


「では、この場でご説明しますけれど。わたくしが目指すものは、この世界の平和。より詳しく言うのなら――あらゆる種族が『仲良く』できるようになってほしいんです。それが、願い」


「それって――」


「ええ。あの、TK-970000X、通称エクス及びその組織の思想とは全く逆。つまり、わたくしと彼らは敵対関係にあります」


「そ、そうだったんですね……じゃあ、あの地下の施設は……?」


「あそこは、エクスたちに対抗するための戦力を生産するための工場ですわ。戦力が集まり次第、敵拠点をせん滅する想定でした。まだまだ拮抗するまでには時間がかかる予定ですが……」


 シャロームの言葉から察するに、エクスたちの組織はかなり規模が大きいようだ。


「なるほど……じゃあもしかしてわたしたち、協力できたり、する……?」


 アルマの発言に、シャロームは頷く。


「ええ。……元々、機械兵士には魔術が通じないので、人間の力を借りることは考えていませんでした。――ですが、今回のイベントを経て、あなた方なら十分戦力になることが確認できました。アルマさん。ニュクスさん。あの機械兵士、機械人形たちの打倒に、協力していただけますか?」


 シャロームの問いかけに、アルマとニュクスは顔を見合わせ、笑った。


「もちろん! 一緒にがんばろ!」


「一緒に戦えるなら、心強いです……!」


「では、同盟成立……ですわね。ファロスさんも、よろしいですね?」


 シャロームの問いにファロスは頷く。


「元々、彼女たちの判断に任せるつもりでしたから、問題ありません。改めて、よろしくお願いします」


 ファロスは右手を差し出し、シャロームはその手を取った。


「――では、具体的な攻略プランを考えたいところですが……こんな場でそんな話は野暮ですわね。ひとまず今日は楽しみましょう。あ。アルマさんニュクスさん何食べます? たこわさ?」


「何そのチョイス。わたしたちお酒飲まないから普通にご飯がいい。――というか、疑問なんだけど、シャロームさんってご飯とかお酒、意味あるの? 機械……なんでしょ?」


 疑問符が付いたのは、以前に接触したエクスと比べ、シャロームが非常に人間っぽいからだ。なんというか、生き物の気配を感じるように思うのだ。心がある、というのだろうか。


「わたくしは機械人形ですが、ちょっと特殊なのですよね。食事は必須ではありませんが、エネルギーの取得減として使うことは可能です。味もわかるし、アルコールでは酩酊します」


「それはつまり……」


「ええ。わたくしは今酔っぱらってます」


 よく見ると頬がうっすら赤い。


「……ほんとに機械人形なの?」


「ほんとですわ。見ます? 証拠」


「ぜ、ぜひ」


 ニュクスの回答に合わせて、シャロームは両頬を挟むように手を当てた。そして――。


「こんな感じで、頭が取れます」


『ぎゃー!!!!!』


 自らの頭を手にしするシャロームを見て、アルマとニュクスは悲鳴を上げた。シャロームはそのまま、手にした頭部の口元にビールを飲ませ始める。


「あっ。よく考えたら体が繋がってないから、首からビールがこぼれるだけでしたわ」


 だばだばと首からビールが垂れ流される。……機械人形であることはわかったが、こんなにポンコツで良いのだろうか?


「……まぁ、でも、楽しいから、いっか」


「うん。新しい、仲間、だもんね」


 こぼれたビールを慌ててふき取るシャロームを見て、アルマとニュクスは笑う。――心強くも、面白い仲間ができた。

 

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