第18話:もしも果たし状を受け取ったら
『せーの』
「アルマ!」
「ニュクス!」
『二人合わせて―、ノマギアでーす!』
あの戦闘から二日後、ノマギアのデビュー動画は配信された。
プロフィール紹介、そして彼女たちがVtuberユニットを組んで戦っている理由。そして、魔力が使えないダンジョンへの挑戦へと移っていく。
シャロームとの戦闘、そして偶然が重なった脱出劇までをわかりやすく編集し、動画の最後にメッセージを入れた。
「皆さん、わたしたちは、この街を――人類を守るため、再びシャロームへ挑まなくてはなりません」
「今のままでは、きっと彼女には勝てません。どうか力を貸してください」
『皆さんからの『Magic Word』お待ちしてます!』
二人は頭を下げ『心力』を募る。そして――最後に二人でハートマークを作る二人の静止画と合わせて、メッセージが表示された。
『魔力のないわたしたちだけど、精いっぱいこの世界のために戦います。これからよろしくお願いします! アルマ』
『魔力がない魔族の私が、こうして皆さんの役に立てていることが何よりも嬉しいです。よろしければ応援よろしくお願いします。 ニュクス』
◆◇◆◇◆◇◆◇
「どう……だった?」
アルマとニュクス、それにセオドア、ファロスの四人は、冒険者協会の一室で公開された動画を見ていた。部屋の正面には大きなディスプレイがあり、そこに『ノマギア』の初配信動画が映っている。
正直なところ、アルマやニュクスとしては大分気恥ずかしくはあった。Vtuberではあるものの髪と目の色以外は基本的に普段の2人を模しているからだ。
「内容としては良かったと思いますよ。やや急展開ではありますが、興味は引きやすかったでしょうし。ですが……」
「何か、他に問題が?」
「集められた『心力』が十分ではありません。このままではシャロームさんに勝つことは難しい」
ファロスの言葉に、アルマとニュクスは黙ってしまった。
「まぁこれは仕方ありません。SNS等で事前告知を行い、これまでの経緯や機械人形との戦闘シーンを編集して入れましたが、一般の方には戦闘におけるリスクや熱量はあまり伝わっていないでしょうし」
前回の機械人形たちとの戦闘は生配信はしていたものの、情報統制などの兼ね合いで『冒険者限定』の配信となっていた。一般視聴者からしてみれば『ノマギア』の二人がどんな相手と戦っているのか、どんな危険があるのかについての情報はほとんどない状況である。
「そっか。シャロームとの戦いもわたしたちが訪問した側だし、あんまり危険は感じていないのかな」
「ええ。もちろん事情はきちんとニュースで告知されていますが、実感が伴うレベルにはなっていないでしょうね。『心力』を貰うためには何よりも視聴者が『応援しよう』という意思が必要です」
「じゃあ、どうすれば……」
「簡単ですよ。実際にリアルタイムで戦いを見てもらえばいい。シャロームさんとの戦闘を生配信しましょう」
「でも、あのダンジョン内は魔力が使えないから、配信できないんでしょ?」
ファロスの言葉に、アルマが問いかける。
「だったら、外に出て来てもらいましょう。わざわざあのダンジョンで戦う必要はない」
「そんなこと……できますか?」
ニュクスの言葉に頷くと、ファロスはセオドアの方を向いた。
「セオドア君。シャロームさんとの戦いの印象を教えてください。彼女の雰囲気というか、戦いに対する姿勢を」
ファロスの言葉に、セオドアは考え込む仕草を見せた。
「そうですね……。率直に言って、 あまり敵意がないというか、本気ではないと感じられました。最初はそもそも見逃そうとしていたし。戦闘が始まってからも興味関心以上の感情はなさそうだった」
「あー……そういえば。殺すつもりはないんだろうなとは思っていたけど……」
アルマの言葉にニュクスも頷く。
「うん。値踏みする意味が強かった印象だね。撤退のきっかけもうまく誘導された気がするよ。――その気になれば、僕らも君たちも皆殺しにして、カメラを破壊することだってできたろうから」
「確かに、そうですね。……だとしたら、シャロームさんは先日のエクス、とは関係ないのでしょうか?」
ニュクスの頭に疑問が浮かぶ。最初にこの街を襲ってきた機械人形、エクスは最終的に今の人類を滅ぼそうとしていたし、こちらに対する敵意や殺意が溢れていた。しかしシャロームには一切そのような雰囲気は感じ取れない。
「……もしかして、別件なの?」
「さて、そこまではわかりませんが、少なくともお話をする余地はあるのではないかと思いましてね。――私の方から彼女に連絡を取ってみます。結果が出たら、皆さんにもお伝えしますよ」
◇◆◇◆◇◆
数日後。同じメンバーが再び会議室に集められた。
「返事がきました。一週間後、リベンジマッチお願いします」
「……リベンジマッチ?」
「どういうこと……でしょうか?」
アルマとニュクスの疑問の声に答えるように、ファロスは手に持った手紙を二人に渡す。
そこに書かれていたのは――。
『果たし状 ノマギア様 ぶっ飛ばして差し上げますわ!』
というシンプルな文字。
「……ねぇおじさん。何を送ったの?」
「……ファロスさん。怒らないから言ってみてください」
アルマとニュクスの問いに、ファロスは無言でもう一枚紙を渡した。
『拝啓 シャローム様
先日は不躾な往訪となり誠に申し訳ありません。
次回はぜひ、我々の街へとご案内の上でお話が伺えればと思っております。
どうぞその際は、美しいお姿を拝見できますと幸いです。』
「……なんか言い回しが引っかかるけど、まぁ普通のご招待か……?」
「アルマ。最後。読んで」
「え?」
ニュクスが指さしたそこには。
『追伸 先日の素朴なお姿の映像は『ノマギア』に渡しておきますので、どうぞ力づくでお受け取りください』
「めっちゃくちゃ煽ってんじゃん!」
「そりゃあ怒りますよ……」
アルマとニュクスの言葉に、ファロスは首を振る。
「いえいえ。これはきっと彼女なりのプロレス。配信のことをよくお分かりだ」
「ま、まぁとりあえず、この町まで来てもらうことには成功した……んですかね。具体的にはどこで戦いを?」
セオドアの疑問にファロスは答える。
「せっかくですからね、大舞台を用意しました。場所は――コペルフェリア武道館」
「それ、魔術や剣術の全国大会とか、でかいライブをやる会場じゃないですか!」
「ええ、せっかくです。ここで派手に登録者を増やしておきましょう」
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