第15話:もしも魔力がなくっても
「ここが……魔力が使えないダンジョン?」
「当たり前だけど……暗い」
アルマとニュクスは森の中にぽっかりと開いた地下への入り口をのぞき込もうとゆっくり近づいていく。
「こら。勝手に進むんじゃない。特にこういったタイプのダンジョンは入口に罠があったり、何か襲ってくる可能性もあるから危険だ」
二人の首根っこをつかんで止めたのはセオドアだった。さすがに二人だけでの冒険は危険ということで、お目付け役である。
「むー。……でも、この中に入ったらわたしたちの方が有利だからね。子ども扱いできるのも今のうち」
「いくら魔力が使えなくても、まだまだ君に負けるつもりはないよ……でも、確かに君たちに頼ることにはなるだろうね」
「でも……罠はともかく、魔力が使えない場所に、魔物とかいるんですか?」
ニュクスはセオドアに問う。魔物とは、魔力を使える生物の総称である。魔力がないダンジョンで生存できるとは思えない。
「以前の調査隊によると、……魔物はいなかった。ただ、機械のような化け物が多数存在していた、と」
「それって……」
「そう、ここは例の機械人形たちの基地もしくは生産工場につながっている可能性がある、ってことさ」
セオドアの言葉にアルマとニュクスは顔を見合わせた。
「それは調査しないといけないと思うんですけど……デビュー配信でやること、ですか?」
さすがに重すぎるのではないだろうか、とニュクスは思う。
「……僕もそう思うよ。ファロスさんは合理主義だからなぁ」
冒険者協会副会長の立場にいるファロスはニュクスとアルマをフォローし、導いてくれるが当然ながら彼にも思惑はあり、そのために彼女たちを利用している側面もあるのだろう。
「そういえば、魔力が使えない状態で配信ってできるの? カメラとか魔力で動いてるでしょ」
アルマのの質問はもっともだ。基本的に撮影、配信には魔導具を使っており、原動力は魔力となる。
「生配信はできないね。そもそもネットワークへ接続できないから」
この大陸の主要都市には通信網として魔導ネットワークが張り巡らされていて、街中はもちろん街道やその周辺であれば高速の無線通信が可能なのだが、こんな辺鄙な場所では当然届かない。
「あ、そっか……街にいると全然意識してなかったけど、この辺だと無線使えないんだ」
「そもそも魔力が遮断されていたら通信はできないだろうけどね……というわけで、僕が撮影した映像をあとで編集して動画にすることになると思うよ」
「りょーかい! かわいくとってねー」
そう言うアルマの姿はいつもと異なり銀髪紫眼だ。普段のニュクスと同じ色合いである。それだけで印象はガラッと変わる。普段が太陽とすれば今は月のようだと、ニュクスは思う。彼女自身も金髪碧眼になっており、印象は大きく違うのだが。
「……あれ? でも、ダンジョンの中で魔力が使えないのなら、そのカメラもダメなんじゃ?」
ニュクスの問いにセオドアは頷く。
「そう。だからこれは『魔力』と『心力』どちらでも稼働するカメラらしい。一応僕にも『心力』はあるからね。普段は魔力と干渉するけど、このダンジョンの中なら使えるってさ」
「なるほど……結構大変ですね」
魔力がある人間が『心力』を使うことはまだ簡単ではないらしい。
「逆に質問なんだけど、君たち、Vtuberとしてのその肉体……どのくらい維持できるんだ? まだ視聴者から『心力』を貰えてはいないんだろう?」
アルマもニュクスも既に『Vtuber』の身体でここにいる。当然ながら肉体を維持するだけで『心力』が消費されている状況だ。
「ファロスさんに聞いたんですが、一応、前回の戦いのときの蓄積があるから、冒険一回分くらいは持つということでした。『心力』は魔力より効率が良いみたいです」
詳しい仕組みは不明だが視聴者から得た『心力』は蓄えておくことができるらしい。
「なるほど。それなら大丈夫そうだね。じゃあそろそろ出発かな」
「あ、その前に。これから入るぞー、の動画取ったほうがいいよね」
「うん。月子さんから貰った台本にも書いてあるし、やろう。……セオドアさん、撮影よろしくお願いします」
「僕も別に撮影うまいわけじゃないんだけど……まぁ頑張ってみるよ」
◆◇◆◇◆◇
『せーの』
「アルマ!」
「ニュクス!」
『二人合わせて―、ノマギアでーす!』
ポージングと共に唱和する声。思わずセオドアは感嘆の声を上げそうになった。ぎこちなさはあるものの、笑顔や動作、声の聞き取りやすさ等、きちんと視聴者を意識した振る舞いになっている。……芸人を彷彿とさせるのは、否めなかったが。
「さて、ニュクスちゃん」
「う、うん」
「これからわたしたちの初配信となるわけですが……本日はこの、魔力が使えないという謎のダンジョンへと挑んでいきます! ……ほんとに? わたしたち冒険とか初めてじゃん」
「行く……らしい、よ? 何すればいいんだろう。いきなり突入していいの?」
アルマとニュクスは顔を見合わせると――じっとカメラの方を見た。
「カメラさーん。教えてくーださい」
「今日の撮影を担当してくださってるのは、A級冒険者のセオドアさんなので、色々アドバイスをしてもらえる……と思います」
台本は読んでいたので流れはわかっていたが、あまり気は進まない。とはいえ彼女たちに危険が及ぶ状況は避けなくてはならない。セオドアは内心嘆息しつつ、カメラを『ノマギア』の二人に向けたまま口を開いた。
「どうも。コペルフェリア冒険者協会所属、A級冒険者のセオドアです。今日はカメラマン兼、彼女たちの冒険指導も担当させていただきますので、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
唱和する二人に対して、まずは所持品の説明と入り口の調査、進み方など簡単なレクチャーをする。不安はあるが、今までの調査隊と違い、彼女たちは魔力が使えなくても強力な武装が扱える。引き際さえ間違えなければ大丈夫だろう。
「よし、しゅっぱーつ!」
アルマの声に合わせて、彼女を先頭に三人はダンジョンへの階段を降りていく。――どうか、何事もなく、ちょうどいい取れ高を得て戻ってこられますようにと、セオドアは願った。
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