第3話 #RedDressDance
ミユは、スマホを握りしめたまま凍りついた。
画面に映っているのは、ユリ。
でも……どこかが“違う”。
(この服、見たことない……)
ユリが着ているのは、深紅のドレスだった。
艶やかな光沢が、まるで血を塗ったように生々しく反射している。
踊っていた。
黒く塗りつぶされた空間で、ゆっくりと、艶やかに――
カメラ目線で、じっとミユを見つめながら。
《このダンス、真似してくれたら嬉しいな》
メッセージと一緒に添付されていたURLはTikTok風だったが、
開いた先は、Web上の異様な再生画面だった。
再生回数:1
コメント:なし
いいねのハートだけが、赤黒く点滅していた。
**
翌日。SNSは突然、「#RedDressDance」で埋め尽くされた。
振り付けは、ユリが生前ひそかに考えていたオリジナル。
それを真似る動画が次々にアップされていく。
けれど、そのバズの裏で──異変が起き始めた。
・ライブ配信中に突然、意識を失って倒れる少女
・「赤い人が後ろにいる」とコメントされた少年のアカウントが数時間後に削除
・「夢でユリが“踊ろ?”って言ったの」…それを最後に消息を絶った女性インフルエンサー
どの動画にも、一瞬だけ赤いドレスの少女が映り込んでいた。
噂は加速する。
《あれ、ユリじゃない。ユリの“ふり”をした何かだ》
《夢で踊らされた。もう止まらない》
《お願い、再生しないで。誰か、本当に止めて──》
止まらなかった。
バズは狂気に染まり、流行は祟りと化していった。
**
ミユは、カーテンを閉め切った部屋でスマホの通知を切った。
コメント欄には、「ユリの死を乗り越えて前に進むあなたが素敵」といった賛辞が並んでいた。
でも、心は──砂漠のように乾いていた。
(……私のせいじゃない。よね?)
カイは、ユリの死を“伝説化”し、瞬く間にフォロワーを10万人伸ばしていた。
「マジで最高の物語になったよな、これ」
その一言が、ナイフのように突き刺さった。
**
その夜。
ミユの部屋の鏡の前で、スマホがひとりでに起動した。
映っていたのは、ミユとまったく同じ動きで踊るユリ。
赤いドレスを着て、鏡の中で完全にシンクロしている。
──「ねえ、最後まで、ちゃんと踊ってよ」
誰かの声が、耳の奥に落ちてきた。
**
スマホのカメラに、ゆっくりとユリが近づいてくる。
画面越しのはずなのに、ミユの首筋がひやりと冷えた。
(どうして私だけ、こんな思いを──)
スマホを落とした瞬間、
通知音がひとつ、鳴った。
《次、あなたの番だよ。ミユ。》
(つづく)
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