第24話「内緒の話」

「あ、ハルスおじさんだ。久しぶり」

 男の子がハルスに話しかけていた。

「ええ。お久しぶりですね」

「うん。あ、そっちはもしかしてカンナお姉ちゃん?」

「そうですよ。スグル様の御父上と御母上様の仲間だった、ズイフウの娘です」

 しかしえらく恭しく話してるな?


「はじめまして。ハカタ町の巫女姫をしているカンナです」

 カンナちゃんも畏まってるな。


「リオル、あの子は?」

「スグルっていって、この町の町長さんだよ」

「あ、あの子がだったのか。けどなんで二人共あんなに?」


「それはわたしが言います」


「え?」

「あ、お姉さん」

 蒼い短髪の女性がいつの間にかいた。


「え、アニキ。あの人ってまさか?」

「ま、間違いねえ。統一軍最強の呪文使い、大賢者リナ様だ」

 ズーネさんとゴリアンさんがそう言……えええええ!?


「名乗る前に言われちゃったけどはじめまして、リナです」

 リナさんが会釈して言った。

「は、はい。あの、この子の父の正秀です。どうやら息子がお世話になったみたいで」

「わたしは何も。したのはスグルとここにいるコノミ」

 リナさんの隣にいた桃色の髪の少女も会釈した。


「今いないけど、コノミちゃんのお母さんにもだよ」

 リオルがそう言う。


「そうだったのか。じゃあ後で……と、すみません。何か言おうとされていたようですが?」

「これは内緒の話。皆さんを信用して言いますので、よそで言わないようにしてくださいね」

 リナさんが真剣な表情で言った。

「? は、はい」

「じゃあ。スグルはね、英雄王の末の子供なの」


「……ええええ!?」


「えー!?」

 ライラも声を上げ、

「きゅー!?」

 おいココ、戻ってるぞ。


「な、なんだって!?」

「ちょ、マジでやんすか!? たしか王族は全滅したって聞きやしたよ!?」

 ゴリアンさんもズーネさんも狼狽えていた。


「スグルって王子様だったの?」

 リオルも戸惑いながら言うと、

「元だよ。もう王家は無くなったんだから」

 スグル君、いや王子様が手を振って言った。


「すまんな、そのうち言おうかと思ってたんだ」

 ハルスが申し訳なさそうに言う。

「あ、ああ。けど王子様がいるならなんで王家再興しないんだ?」


「残った仲間達とスグルの亡き長兄、王太子リョウとで話し合って決めたの。それはやめておこうって」

 リナさんがそれに答えてくれた。

「え、なぜですか?」

「世界全体を治められる程の人がいないからなの」

「あの、どういう事です?」

「わたしもだけど、残った仲間達も政には不向きだし、家臣もそこまでの器量はないから。あとね、これも内緒だけどわたしの子はリョウの子でもあるから」

「後継者争いが起こるかもですか?」

「うん。本人が望まなくても……もう百年も続いていた戦乱、十年以上の疫病がやっと終わったのだから、小さな村や町でもそこにいる人達で力を合わせて平穏に暮らしていった方がいいだろうとなったの」

「……そうですか」

 たしかに戦乱が起こる可能性は無くしたいかもだが。


「その平穏に力を貸してくれる者も来てくれた。正秀さんという異世界転移者が」

 リナさんが……え?


「あ、あのなんで俺が異世界から来たって分かったのですか?」

「それは秘密。それとハルスさんもだよね」

 リナさんがハルスの方を向いて言う。


「なんとなくバレてるのではと思っていましたが、やはりですか」

 ハルスが苦笑いしながら言った。

「そりゃ分かる。わたしは魔法力だけならズイフウに勝ってたけど、戦術や知識においては全然歯が立たなかったもん。どこであんな知識手に入れたんだって思ってたら、あなたがだった」

「私が教えたことなどさほどでもないですよ。全て彼の力です」

「謙遜しなくてもいいのに。その知恵で西の方をお願いします」

 リナさんはそう言って頭を下げた。

「ええ。力の限り」


「正秀さんも、お願いします」

 リナさんが今度は俺の方を向いて頭を下げる。

「ええ。テンオウ村を再建するため、人も集めていきますよ」


「おじさん達、皆で力を合わせていこうね」

 王子様が近づいてきて、手を差し出して言った。

「ええ王子、じゃないですね町長さん」

 俺が握手しようとすると、

「ううん、リオルの友達として扱ってほしいなあ」

 そう言って頭を振った。

「じゃあ、スグル君でいいかな?」

「うん! おじさん、よろしく!」

 スグル君は握手を受けてくれた。


「ねえ、空から見えたけど畑が元気なかったね」

 ココがスグル君に言う。

「うん。土地が荒れてなかなか育たないんだよ。今年も収穫少ないかな」

 スグル君が俯いて言った。


「父さん、今日はいいよね?」

 ココが尋ねてきた。

「いいぞ。精霊の女王様だってきっと許してくれるだろ」


「え? 何か手があるの?」

 スグル君が顔を上げて聞いた。

「それは見てのお楽しみだよ」




 俺達はココを先頭に畑へ来た。


「じゃ、きゅー!」

 ココが光の霧を吐くと、それが畑全体を包み……そして。


「あ……作物が!?」

「あ、あんなに実ってるぞ!」

「やったああ!」

 いつの間にか着いてきていた町の人達が歓声をあげた。


「あれだけあれば皆が充分に食べて行けますよ。ありがとうございました」

 そう言ったのは副町長、いや今は実質の町長である男性。

 彼もハルスの友人で、かつては英雄王様の秘書役だったとか。

 

「神竜なのは分かってたけど、あんな事もだなんて」

「ココくん、ありがと」

 スグル君とコノミちゃんも礼を言った。


「きゅー」

 ココは疲れたのかリオルの頭に乗っていた。


「あ、あの、すいやせんが、あれもう一回できねえでやすか?」

 ズーネさんがおそるおそるココに言ってきた。


「え、何か足りませんでしたか?」

 俺が聞くと、

「いやね、あんな事ができるならこれもと思いやして」

 そう言って懐から小さな袋を出し、その中身を見せてくれた……って、え?


「そ、それ、まさか種籾?」

「知ってるんでやすね。ええ、あっしの故郷で作ってたんですが殆どやられて、これだけしか残ってねえんでやす」

 

「王太子様が存命の頃に旅商人から手に入れていたのだが、種はその商人も持ってなくて出所も分からなかったんだ」

 副町長さんが言う。

「村の掟でよそへ広めないようにしてたんでさ。これは神様への供物で、その余りを頂戴するからって」

 なるほど、それでか。


「こっそり売ってた人はいたけど、やはり種籾まではだったのでしょうね」

「そうでやしょうね。もう村は滅びちまったんで広められるならしてえんでやすが、いい土地がなかなかなくて」

 ズーネさんが種籾を見ながら言った。


「なあ、この辺りに沼地かなんかないか? そこでなら育つと思うぞ」

 ハルスが副町長さんに尋ねた。

「ああ、それなら町の南の方にあるぞ」


 そして、そこに種を蒔いた後でまたココが息を吹くと、


 あっという間に多くの稲穂が。


「ああ、これでやすよ……」

 ズーネさんが大粒の涙を流し、

「黄金の稲穂……もう二度と見れないかと思った、うううう」

 ハルスも大泣きし、皆貰い泣きしていた。


「ココくん、本当にありがとうございました」

 副町長さんが深々と頭を下げて言い、

「きゅー。疲れたー」

 ココは今度はライラにひっついた。

「うんうん、お疲れ様ー」

 ライラが抱きしめて労った。


「皆、早速収穫してお祭りしよ」

 スグル君が言うと町の人達が嬉しそうに準備に取り掛かった。

 米は魔法で今日の分だけ食べられるようにして、後は自然に乾燥させることになった。

 それがいいかもな。

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