第15話「本当にして欲しかったのは」

 俺達はカンナちゃんの部屋の前に来た。

「カンナ様、よろしいでしょうか?」

 町長さんがドアをノックすると、どうぞと声がしたので中に入った。

 

 カンナちゃんは部屋の隅にあった机に向かっていた。

 しかし質素な部屋だな、家具も机もベッドも最低限のものって感じ。

 彼女の性格なのかな。


 そして彼女がこっちを向き、

「何? ……あ」

「カンナ、改めて久しぶり。あーしはこの通りだよ」

 ライラが声をかけるが、

「……出てけ」

 また睨んで冷たく言った。


「ちょっと待ってよ。知らないなんて言わないで話そうよー」

「話す事なんかない」

「もう、あれが来てイライラしてんでしょうけど」

「何それ?」

「え? じゃあ何がそんなに気に入らないのよー?」

 ライラが聞くと、カンナちゃんはしばらく間をおいてから口を開いた。


「……お姉ちゃんがいたら、わたしはまた目立たなくなっちゃう」

 は?


「え? ね、ねえ、目立たないって何よー?」

 ライラが戸惑いながら尋ねた。

「……わたし、ここに来るまでチヤホヤされなかったもん」

「あんだって?」

 おい、ライラはあの御方をまだ観てないだろ?


「ハルスさんからお父様が英雄王様の仲間で、英雄の一人だって聞いた。それもあるんだろうけど皆わたしを褒めてくれる。魔法で治療して感謝してくれる。ただ話してるだけでも喜んでくれる。それが嬉しかった」


「何言ってんの? あんた孤児院にいた時もそうだったじゃん」

 あ、そうなのか?


「全然そんな実感がなかった。お姉ちゃんがいたから」

「なんでよ?」

「お姉ちゃんはいつも明るく元気で話し上手で、それを見て皆も明るく元気になってた。わたし、凄いなあって思いつつもちょっと嫉妬してた」


 あの、それ無理してたのもあったんだぞ。

 と言いたくなったが今は堪えた。


「そうだったの? カンナでもそんな事思うなんて……それはごめん」

 ライラが頭を下げて言う。

「謝らなくていいから、どっか行って」

「ね、ねえ。そんな事言わないでよ。あーしどれだけ心配してたか」

「わたしだって心配してた。けどそのおじさんに買われたんでしょ」

 カンナちゃんが俺の方を向いて言うが、


「口挟んで悪いが、買ってないから。縁あって親代わりになっただけ」

「そう。でもおじさんの気は綺麗だから悪い人じゃないのは分かる。だから安心」

「安心だって思ってもらえて嬉しいが、ライラを追い出そうとするのはなあ……まあ、チヤホヤされたいって気持ちも分かるけどね。俺なんかこの歳まで全然誰にも相手にされなかったからな」


「え? そんなふうに見えない?」

 カンナちゃんが目を丸くした。


「そうなの? おじさん優しいのに?」

「きゅー?」

「嘘でしょー?」

 子供達もそう言ってくれた。


「ありがと。けど前まではほんとそうだったよ」


 子供の頃からいてもいなくてもいいって感じで、家族以外誰もだった。

 大人になってなんとかやってはいたが、やはりだった。


 けどここに来てリオル君に、ココに、ライラに会えた。

 そして親代わりになれて嬉しく思い、必要とされてるんだなって思えた……ほんと皆には感謝してるよ。


「大勢にってのもいいけど、ずっと一緒にいたお姉さんを追い出してでもそれ欲しいの? 俺は子供達を捨ててまでは要らないよ」

 噓偽りなく自分の気持ちを言った。


「……お姉ちゃんもだけど、そのうちリオル君もココ君もおじさんよりチヤホヤされるよ。二人共凄い気持ってるから」

「それは構わないよ。我が子がそうなったら親として嬉しい限りだ。君だってお姉さんに嫉妬してたかもだけど、チヤホヤされてるの見て嬉しくも思ってたんだろ?」

「……うん」

 カンナちゃんは小さく頷いた。


「だろ。それにさっきライラが言ってたが、カンナさんは元々全く相手にされなかった訳じゃないんだろ?」

「うん。思えば皆チヤホヤしてくれてたかも。けどお父様は皆平等にだった」

「お父さんは立場上そうせざるを得なかったのかもだけど、ライラはどうだった?」

「一番可愛がってくれたけどお父様は……あ」

 カンナちゃんが何かに気づいたようだ。


「チヤホヤされたかったのかもだけど、本当はお父さんにそれをして欲しかったんじゃないかな?」

「……うん、お姉ちゃんも好きだけど……やっと分かった」


「そうだったのか、あの野郎は融通が利かないとこあったからな。いや気づかなかった俺が悪いのだが」

 町長さん、口調が乱暴になってますよ。


「けど、お父様にしてもらうのはもう叶わない。だから……お姉ちゃん」

「んー、何かねー?」

 ライラがおどけて返事した。


「ごめんなさい」

 カンナちゃんが頭を下げると、

「あー、いいんだよ愛しの妹よー」

 ライラはそう言ってカンナちゃんを抱きしめた。


「……お姉ちゃん。改めて、やっと会えた」

「そだねー……うえええん!」


「急に泣きださないでよ、もう」

 リオル君が苦笑いしながら言った。


「そう言ってあげないで。今は二人だけにしようか」

「きゅー」

 俺達は部屋を出た。



「あの、ありがとうございました」

 町長さんがまた頭を下げてきた。

「いえいえ、正直これでいいのかと思いながら言ってましたよ」

「いえ、全ては私の不徳としか……カンナ様がまだ十三歳だというのを忘れていました。なんせ父親が同じ年の頃に大人顔負けの軍師格だったもので」


「そりゃそんな人の娘さんならって思いたくもなりますよね」

「ええ。見た目は母親似ですが、中身が徐々に似てきてましたから」

 ああ、この人はカンナちゃんの母親も知っているんだな。


「そうだ。不躾ながらお願いがあるのですが」

「え、なんでしょうか?」

「カンナ様を正秀殿の養女にしていただけませんか?」


 ……は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る