第3話「怖いし嫌だ」

 深夜。

「う、うあ」

「え?」

 声がしたので起き上がると、彼が苦しそうな表情でうなされていた。


「どうしたの? どこか痛いのか?」

「う、あ……パパ」

「え?」

「ママ……置いてかないで」

 彼がそう言って手を伸ばした。

「大丈夫、だから」

 その手をそうっと握ると、

「……」

 彼は安心したのか、また眠りについた。


 もしかしてこの子の両親は、もう……。

 ほんとこの村、何があったんだよ?

 

 そうだ、アプリに聞いてみたら分かるかな?

 なになに? ……はあっ!? 


 十数年前に複数の地域で同時発生した疫病が世界中に蔓延り、治療法も無くどんな薬も効かないせいで現在までの間に世界人口のおよそ八割が死亡したって!?


 なんちゅう恐ろしいもんがあるんじゃこの世界は!

 あれの比じゃないぞ!


 あ、もう収まりつつあるのか。

 あと詳細は生き残った方に聞いてくださいだって?


「う、うーん……あれ?」

 あ、目を覚ましたか。


「……ここ、どこ?」

 彼が起き上がって言う。

「ああ、まだ寝てなさい」

「おじさん、誰?」

 怯えてはいないようだが、怪しいと思ってるかもな。


「俺は正秀って言うんだ。ここは俺の家。それで君の名前は?」

「リオル」

 やっぱ異世界って名前だな、っと。


「リオル君だね。あの」

「ねえ、ぼく死んでないの?」

 ああ、死神とでも思ったか?


「生きてるよ。君がお墓の前に倒れていたんでね、家に連れて帰って寝かせたんだよ。もう大丈夫だからね」

 そう言えば安心すると思ったが、


「……死にたかったのに」

 え?


「ってあのね、そんな事言ったらご両親が悲しむぞ」

「そう。けどどうせそのうちぼくも疫病で死んじゃうんだ」

 リオル君が俯きがちになって言う。


「あのね、それは無いから」

「嘘だ。ねえ、おじさんにうつったら悪いから、早くぼくをお墓の前に捨ててよ」


「誰がそんな事するか!」

「ひっ!?」

 リオル君が小さな声をあげて怯んだ。


「あ、ご、ごめんね」

 思わず強く言い過ぎた。


「……おじさん、疫病怖くないの?」

 リオル君がおそるおそる聞いてきた。


「ん? そりゃ怖いな。けど君を捨てる方がもっと怖いし嫌だわ」

 本心からそう言ったら、


「村の人は怖がって家焼こうとしたよ」

「……なんだって?」

「お祖父ちゃんが疫病になったから、それで……パパや叔父さん、仲のいい人達が止めるって言ってね、ぼくやママに他のおばさんや友達は逃げなさいって」

「それで、戻ってきたらああなってた?」

「うん……」


 ……対処法も何もないからそうしようとしたんだろな。

 その人達を責められないが、せめて隔離するとかも思いつかなかったのか。


 それと、もしかするとお父さん達はこの子達が追われないよう他の村人を道連れにしたのかもな。


「けど、結局皆疫病になって死んじゃった。ママも一昨日死んじゃった」

「それで、お母さんのお墓作った後で熱が出た?」

「……うん」

「けどね、君は疫病じゃなくて風邪だよ。だってもう治りつつあるんだし」

「そうなんだ……」

 リオル君は涙目になっていた。


「とにかく今は寝なさい。あ、そうだ。よかったらこれ飲んで」

 俺はコップにポットの水を注ぎ、それをリオル君の枕元に置いた。

「……うん」

 やはり喉が渇いていたのか、リオル君はそれを一気に飲み、その後で横になった。



「寝たかな? ……たしかに世を儚んでとなるよな。けど生きててほしいと皆願ってると思うよ」


 それとあの光、あの声……。

 女性の声っぽかったんで女神様かとも思ったけど、あれはこの子のお母さんだったんだろうな。


 ……俺にどれだけの事ができるか分かりませんが、精一杯の事はさせていだたきますよ。


 視界の隅でまた何か光った気がした。

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