第2話「もう無いはずの懐かしき場所」

 墓地から五分くらい歩いただろうかという時だった。

「……え?」

 そこにあったのは、少し大きい二階建ての日本家屋。


 というかこの家、小学校に上がる前まで住んでいた昔の俺んちそっくりだ。

 祖父ちゃん祖母ちゃんにとっては終の棲家だったな。

 二人が亡くなった後、取り壊してもう何年になるか。

 ああ、懐かしいな……。


 そう思いながら家を眺めていると、あの光がスッと中に入っていった。

「あ……って、そんな場合じゃない。ごめんください、誰かいませんか!」

 戸を叩いて呼びかけてみたが、反応が無かった。

 誰もいないのか? 鍵は開いてるみたいだな。

 もし誰かいたら、帰ってきたらお詫びしよう。


 中に入ると記憶のままの玄関に廊下。すぐそこが畳敷きの居間。

 隅に古いブラウン管テレビもあり、横手に押し入れも。

 それを開けると布団と毛布、折り畳まれた浴衣が五枚あった。


 よし、ここに……その前にこの子凄い汚れてる。

 体拭いて着替えさせてからにするか。

「ごめんね、ちょっと待ってて」



 風呂場は……ん、やっぱり同じ造り。

 タイルの壁に古びた浴槽。

 洗面器も置いてあったのでそれにお湯を入れ、脱衣所にあったハンドタオルとバスタオルも持って居間に戻った。


「ちょっとごめんね、よいしょっと」

 バスタオルを敷いて襤褸切れを脱がせてから寝かせて、お湯で濡らしたタオルで体を拭いて。


 なんとか綺麗になったので浴衣を着せて、布団に寝かせた。

 あと男の子だったな、ちゃんとあった。 


 って、薬無いかな?

 だんだんと配置思い出してきたけど……いや同じだろう、もうそうとしか思えん。


 隣の部屋を開けると、やはり床の間があった。

 そこには仏壇もある。

 それの引き出しを見ると……あった。

 祖母ちゃんがここに薬入れてたんだよなあ。

 しかもこれ、俺が子供の頃に飲んだシロップの風邪薬じゃんか。

 

 って思い出に浸るのは後。


「さ、これを」

「ん……ぐ」

 意識は朦朧としているみたいだが、なんとか飲んでくれた。


「さ、ゆっくり寝てなさい」

 額に水で濡らしたタオルを乗せてあげた。

「ん……」

 しばらくして薬が効いてきたのか、寝息を立て始めた。


 しかし今更だけどこの家、電気もガスも水も来てるな。

 もしかしてテレビ映るのか?


 つけてみるとやはり何も映らない。というか砂嵐。

 チャンネル回しても同じ。

 いやもしかすると女神様が映って話し始めるんじゃって思った時。


 胸ポケットのスマホが振動した。

「え?」

 見ると画面が開いていて、覚えのないアプリが入ってた。


 あ、もしかしてこれがかな?


 開いてみると説明文みたいなのが出てきた……えっと。

 書かれていたのは、


『まず、勝手に転移させてしまった事をお詫び申し上げます。本来なら姿を見せて詳しく説明するべきなのですが、事情があってそれが叶わずこのような形となりました』

 そうなのかよ、神様(?)にもそういうのがあるのか。

 

『せめてもと思いその家を用意しました。正秀さんの記憶を元に再現しましたのでほぼ同じかと思います。それと正秀さんのお家にあった家具や衣類、その他の物は元の正秀さんの部屋に置いてあります』


 元の部屋は二階。

 そこへ行ってみるとたしかにあった。

 テーブル、本棚にテレビ、パソコンも。

 ダンボール箱もあり、開けてみると食器や私物が入っていた。

 これもう引っ越してきたのと同じだろ。


『この家では水光熱が元の世界と同じように使えます。あと当座の食料は台所にあります』

 行ってみると冷蔵庫に野菜や果物、味噌、挽肉や切身魚、卵のパックがたくさん入っていて、その横に置いてあった米びつに米もたくさん入っていた。

 更にその横にじゃがいもやたくさんの缶詰、インスタントラーメンまで置いてくれていた。

 あ、じゃがいもは植えればいいかも?


『ご不明な点はこのアプリに文字を打って質問すればある程度は答えてくれます。それとあの子は疲労から来る風邪をひいていますが、栄養を取って安静にすれば治りますよ』

 チャットボットみたいなものかな?

 てか聞く前にそれ答えてくれるならもう上等ですよ。


『最後に……ご苦労をおかけしますが、よろしくお願いいたします』

 そこで文章は終わった。


 なんの理由かは言えないみたいだが、いいか。

 どうせもう家族はいない、会社でもいてもいなくてもだし、どっかで新たにと思ってたところだ。


 っと、まずはあの子をだな。




「うん、さっきより熱下がってるな」

 タオルを取り替え、起きた時の為にポットと水も用意した。


 ……そういえば、俺が熱出した時は母さんがこうしてくれてたな。

 父さんも心配そうに何かしようとしてくれたが、母さんに邪魔だと追い払われてたっけ。

 ほんと不器用なとこしか似なかったな、俺。


 あ、そうだ。さっき見たけどあったよな。




 台所へ行って冷蔵庫を開け、牛乳とバナナを取り出し、桃と蜜柑の缶詰を開け。

 砂糖も流し台の下にあったし、ミキサーも棚に入ってた。

 

 バナナを一口サイズくらいに切って、桃と蜜柑はこのくらいかな。

 ミキサーにそれらと牛乳、砂糖を入れて……スイッチを。


 グアングアンと懐かしい音が響く。

 ああ、昔よく母さんが作ってくれたよなあ。


 ……ごめんね、ヘタレで。




 それを冷蔵庫に仕舞い、居間に戻るとあの子はまだ寝ていた。

 当分起きないかな。


 気がついたらもう窓の外は暗くなっていた。

 ほんとあっという間の一日だったな。

 さてと、自分の飯……台所にあったカップ麵でいいか。


 それを食べた後はさっとシャワーを浴びてパジャマに着替え、彼の隣に布団を敷いて仮眠することにした。

 時々は様子見ないとだしな。

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