幼馴染み以上、恋人未満
キジトラタマ
第1話
(アイリちゃん、おとなになったら、ぼくたちけっこんしようね)
なんて言っていた、幼馴染みの
ほとんど話したこともない、同じクラスの女の子から、告白されたらしい。
「よく、OKしたわね」
「俺は将来医者になるから、何事も経験が必要だと思ってね。こういう体験学習は、高校生のうちからしておいて、損はないだろ」
「体験学習……って」
ヒロトは幼い頃から頭がよく、将来医者を目指している。中学時代から部活動もせず、学校が終わった後は毎日、自宅で勉学にはげんでいた。
だから、彼女ができたと聞いた時には、少し驚いた。
「女の子の心と体を知るには、つき合うのが一番だろ」
「何だか、いやらしい言い方」
「勘違いするなよ。俺には
勉強好きなのはいいけど、こういうことを本気で言うところは、少々呆れる。
「……それ、彼女は、承知しているの?」
「それでもいいって、言っていたけど。なんか、俺と一緒にいられるだけで、幸せなんだって」
「ふうん」
まあ……、ヒロトは背が高く、顔もいい。
やや世間知らずなところはあるけど、性格も純粋で真面目だ。
包容力がある、と言うのだろうか。
正直、一緒にいて安心できるところは確かにある。
だから、女の子が惹かれるのも、わかる気はする。
「……で、健気な彼女のその言葉から、何か学び取ることはなかったわけ? 教科書なんでしょ」
「何かって?」
「……全然、学べてないじゃん」
それでもいいと言った彼女の、言葉の裏にある、女心を。
本当は好きになってもらいたいって思っているだろうし、これから少しずつ好きになってくれるのを、期待していると思うけどな……。
はたして、この人が彼女を好きになることは、あるのだろうか――。
「いろいろと、学ばせてもらってはいるよ。どういう時に何を言ったら喜ぶとか、手をつないだらテンションが上がるとか、キスしたら顔が赤くなるとか。体は丸みがあって、柔らかいし。女の子って、本当に、興味深い生き物だよね」
「……」
最低だな。この男。
すべて、記録までつけていそうである。
「キス…したんだ」
「したよ。女の子の唇って、どんな感触なんだろうと思って。キスしてもいいかって尋ねたら、いいって言ったし」
本当に、罪作りな男。
本人は体験のつもりでも、彼女はひょっとすると、両想いになれたと信じたかも知れないのに……。
「……で、どうだったの?」
「ううん…。ムニュって、柔らかかったね。あと、何か首のあたりから、いいニオイがしたかな。香水?」
「そういうことでは、なくて。ヒロトは彼女とキスして、何も感じなかったわけ?」
「いや、別に何も。だって俺は、彼女に恋愛感情みたいなものはないからね」
「好きじゃないのに、キスができるの?」
「……お前さ。何か勘違いしてない? 俺は今、女の子の心と体について、学習中の身。彼女もそれを理解して、つき合ってくれているだけだよ。その点は、感謝するけどさあ。知ってるか? ヨーロッパの国なんかでは、友人同士で、予行演習とかもするらしいぜ」
「予行演習?」
「セックスの」
「ッッッ!!?」
「本気で好きになった女の子の前で、恥をかきたくはないじゃん。リードできる男になるための、練習だよ」
本当に最低だな。この男。
学校が違うから彼女とは面識すらないけど、彼女の代わりに、頬をひっぱたいてやりたい気分である。
「彼女と……、するの?」
「もちろん、彼女がいいって言ったらね。学習のために」
「そんな要求、絶対にしない方がいいと思うけどな」
「何で?」
「彼女が、傷つくだろうから」
「でも彼女は、僕のために自ら、教材の役目を――」
「ダメったら、ダメ!」
ピシャっと言うと、ヒロトは不満げに口を閉じた。
体を重ね合うのに、教材なんて、酷い言い方だ。
「彼女がヒロトのことを本気で好きだったら、愛がない……なんて、傷つくでしょ」
「……彼女は、割り切ってくれると思うけどなあ」
「あなたには一生、女心はわからないでしょうね」
「まあ……、俺は基本的に、女の子に興味はないからね」
「女の子に興味はない…って、ひょっとして、ヒロトは――」
あちらの、ケが……?
「ばあか。アイリ以外の、っていう意味だよ。じゃあお前、結婚する時に俺がど素人でも、文句言うなよな」
「……は?」
完
幼馴染み以上、恋人未満 キジトラタマ @ym-gr
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