第2話

「というわけで腹違いの弟に命を狙われている俺は、この世界に一時的に避難に来たわけだ」

「へー」

「それで、うむこれは美味いな!流石は俺の妻となるだけある……で運命の番がいると知ってだな」

「じぃちゃん、ししゃも一匹頂戴よ」「嫌じゃ」


 何やら一緒に食卓を囲む青年の名はなんだっけ、長ったらしくて忘れた。

 とりあえず『ネイさん』は、異世界の第一王子だそうです。何で逃げてきた先がここなの?


「だから避難ついでに嫁を探して来いと言われて、まもなく俺も30歳だ」

「やだ、私より年上に見えなくて憎い……」

「うんうん憎しみと愛は表裏一体、絵里香は可愛い」


 突然の誉め言葉に顔が赤らんでしまうのは許してほしい……なんせ慣れてない。

 恋人いない歴もう何年目になるのか、枯れる寸前であがく私としては、目の保養としてはいいんだけど、言ってる事は滅茶苦茶の、中二病をわずらっているイケメンに愛を囁かれても困る。しかも異世界とか妄想がヤバい。


「ええっと、何かのドッキリ……ではなく俳優の卵さんとか?とりあえず記憶喪失系?薬とかシテマスカー?」

「何を言ってるのかわからない」


 真顔で返事をされた。

 オカルト研究家の祖父はノリノリで面白がっていて役に立たない。ダメだこれは。


「何にせよ、落ち着くまでこの家でいるのがいいだろう」

「ちょっと嫌だよ!じぃちゃん!」

「そんな事言っても、当てたのはお前じゃろ」

「なんで、そもそも景品になってたのよ!」

「運命の人に巡り合える魔法がコレだったのだ」

「そのスットコ魔法使い呼んでこーい!!」


 嘆きもむなしく、胡散臭い王子が居候する事になってしまったのだ。ちなみに商店街のイベント問い合わせに返品を申し出たが却下されてしまった、トホホ。


 王子は父が来ていたダサダサスウェットに着替えると、海外留学生が芋スウェット来てもバエちゃうぜ状態でちょっと萌えでした。

 うん、黙っていたら本当に男前!だけど行動が落ち着きなく子供のようにはしゃいでいる。

 テレビをつけては目を輝かせ、あれ何?これ何?の質問ぜめ。

 シャワーとトイレの下水道関連は似たものらしく勝手に我が物顔で使っていた。祖父も面白がって付き添って色々と教えては二人で盛り上がっていたが、私はなかった事にして一人私室に戻って寝る事にする。


「……で?何でついて来るの?寝るんだけど?」

「夫婦なんだから一緒に寝るだろう」

「誰が寝るかーっ!」


 バンと鼻先でドアを閉めてやったら、サッと後ろに下がって避けていた。

 反射神経はあるらしい……チッ。


 ともかく始まった同居生活、私は昼間は転職活動に必死で、家にいない間は図書館に通って資格の取得のためという名の逃避に走ったり、気分転換という名の買わないショッピングとかを嗜んでいるんだけど……ついて来るんだよ……何が?王子だよ!


 流石に数日は大人しく祖父と家で待機していたが、四日目には祖父と近場にお出かけしてゲートボールを楽しんだらしい。

 あげく本気になって年寄りを総なめで倒したあげく、ばぁちゃんズからお菓子を大量に貰って餌付けされて帰宅した。でも年寄りの行き先も飽きたのか、今度はとうとう私に付きまとうようになったのが一週間目。

 仕事だって言ってるのに


「仕事だという仕事を探す仕事」

「つまり絵里香は暇なんだな祖父殿」


 という祖父の裏切りにより大手をふって私に付きまとう。

 これを無視しても無視してもめげない、負けない、くじけない。


 というわけで、すでに毎日の日課と化している職安にて本日も雇用カードを提出して専用PCを利用し職探し。まあ毎日来ているので代わり映えもせず終了。

 建物の外で待機させてネイさんの元に戻ると、またしても奴は人に絡まれていた。


 そう、あの無駄に整った美顔のせいで女性に囲まれているのはいつもの事だ。

 これもあるから面倒で連れて行きたくないのに、走って逃げても笑って追いかけてくる。

 捕まると強制抱擁の刑、最初は正直トキメいたのは事実 ( 男慣れしてなくてすいません )

 だけどいい加減慣れたよ異文化だよ、王子の話が本当なら異世界ギャップジェネレーション!!

 とりあえず両手をホールドアップして助けてと目で訴えてくるネイさんを一応は保護しないと。


「すいません、私の連れが何か?」「ほら彼女が私の妻で」「黙ってネイさん」「はい」


 スーツを着込んだ、いかにも遣り手のOL女性は眼鏡をキラッと輝かせ興奮気味に言った。


「彼はどこかの事務所に所属されていますか?ぜひ当社のイメージ広告に出演して頂きたく」

「事務所NGなんで、それでは」


 流石に街に出る度にこういうシーンに出くわしたら対応方法も学びますって。

 ヘラヘラと笑う王子の手を引っ張って、とっとと私たちはその場を後にした。

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