くじ引きで異世界王子を引き当てました。私の悪運もここまでです。

西野和歌

第1話

「おめでとう!大当たりの1等賞だ!」


 商店街のガラガラ抽選に何気なく参加した私は、係のおじさんの声に目を丸くしていた。


「家でゴロゴロしてるなら、晩御飯のおかずにししゃもと柿の種と日本酒を買ってこい! この穀潰し娘」


 たまたま祖父に頼まれた買い物の途中。ただ今無職で祖父に甘えている身としては、怒りを堪えて買い出しに来たけれど、買い物の後半はただの晩酌用のツマミじゃないか!


 私こと、上原絵里香は昔から運がなかった。

 本当に自分でも笑ってしまう位に、ここぞという時は、スベるし落ちるしロクな事がない。

 道を歩けば自分にだけ鳥の糞が落ちてくるのはザラ、楽しみにしていたイベントが雨で中止もザラ。

 おみくじの末吉以上を当てた事もなければ、学生時代の席替えは、いつも一番嫌だと思った場所だけは当てる的確さ。


 流石にそんな人生を生きてきたあげく、つい最近は新しく赴任してきた上司ガチャに失敗。それが原因で退職した身としては、今この商店街のおじさんに祝福される現実が信じられない。


 チラリと特賞を見たんだけど、それは大きな人が一人は入りそうな大箱に、豪華なリボンがかけられていた。

 しかも中身はご丁寧に『豪華景品! 開けてからのお楽しみ』なんて書いてある。


「すいません。1等賞じゃなくていいので、隣の3等のビールセットに変更できませんか?」


 怪しい中身のわからない景品より、大好きなビールが欲しい。どうせ一生に一度あるかないかの運を使い切ったのならば、自分の欲しい物がいい。


 ちなみに祖父は日本酒で、私はビールがないと生きていけない体である。

 そこだけは似てしまった悲しい遺伝子に乾杯。


 だが私の願いはすげなく却下され、その代わりに景品はきちんと家まで届けてくれるという。

 渋々と家の住所と名前を配達申込書に記入して、私は帰りに事故に合わないかとビクビク怯えながら帰宅した。


 小さな古い平屋の日本家屋。そこが、私と祖父が住む家だ。

 高校時代に両親が事故で死んでから、私は祖父と二人暮らし。


 うちの祖父は善次郎、意味の分からないオカルト研究家でその界隈では有名らしい。

 いまだに変な雑誌に、たまに記事投稿とかお願いされているが、私はまったく興味がない。


 古い玄関を開けて「ただいま」と声をかけて入っていく。買い物を冷蔵庫に詰めて簡単な晩御飯を用意する。そう無職の私はこの家の家事担当だ。


 古臭いこの家が嫌だと一人暮らしに憧れた事もあったのさ。だけど人生割とエンジョイライフしている祖父は、悲しい事に家事全般スキルが無能なうえに文句だけは一人前。

 うん!見捨てれば良かったチクショウ!


 せめて見た目だけは清楚系でいたいと、伸ばした黒髪を後ろで縛る。まあ美容室行くのを節約しているんですけどね。

 台所から鍋をかき回すカラカラという音と、みそ汁のいい香りが漂うと、フラフラと祖父が現れた。


 見た目だけならホリの深い渋いイケメンじじぃで、外国人かも? って位には日本人離れした顔つきだ。

 若い頃はそれなりにモテただろうが、亡くなった祖母一筋な所だけは評価してあげたい。


「絵里香、なんか今荷物が届いてたから運んでおいたぞ」

「えっ、もう届いたの? なんかさっき商店街抽選で当てたんだけど重くなかった?」

「うんにゃ、軽かったから持ってきておいた」

「ふーん、まあごはん食べてからにしようよ」


 私と祖父の二人分を並べた食卓の横に、かさばる大きな箱がデン!と主張している。

 夕食を並び終え椅子に座ろうとすると、祖父がチラチラと私と箱を見比べた。


「気になるなら開けてもいいよ?軽かったなら中身も大した物じゃないでしょうに」

「いや、お前の最後の運を使い果たして当てたんだ。お前が開けるべきだ」

「なんか嫌な言い方したなぁ、まあ邪魔だしとっとと開けて片付けよう」


 むしろ邪魔になるのに、何でここに持ってきたんだ?ボケた?よいしょと座りかけた腰をあげて、自分の背丈より高い箱に手を伸ばす。

 とりあえずどうすればいいんだろう……ぶち壊して開ければいいのかな?

 捨てるのが面倒そうだなと、既に喜びより後始末の心配が先にくる。そんな自分の運気を信じていない絵里香がいた。

 どうせ中身に期待なんて……と箱に手が触れた瞬間。

 バコーン!!


「ひぃっ!」「おおうっ!」


 祖父と孫の驚きが重なった視線の先で、大きな箱の内部から両手が突き出された。


「はい?腕?は?」


 バリバリと箱をぶち破り、颯爽と中から出てきたのはどこの舞台か宝塚かという中世風の衣装を着たイケメン。満面の笑みで背中に薔薇でも背負っているのか、生まれながらの照明係が専属でいるのか。キラキラと名画のようで、目を奪われる美貌に唖然とする絵里香。

 そんな絵里香の元にスタスタと近づき、突然思い切り抱き着いた青年は感極まるという声で叫ぶ。


「ああ俺の愛しい番!やっと会えた愛しい人!俺の思った通りの可愛らしい……」

「返品しま――――す!!」

「おおうっ!」


 孫の怒声に怯む祖父、そして青年はバリッと絵里香の抵抗によって引き離された。それは新たな穀つぶしが一人増えた記念すべき瞬間でもあった。

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