希望2

「愛ちゃんは死ぬ。儂は死なん。儂の勝ちじゃな」


「何の勝負ですか」


 基本的に馬鹿なんだろう校長は。


「ところで何しに来おったんじゃ?」


「謝罪してまわってるんです、関係者のところを」


「なるほど。存分に謝るがよい。儂は謝らんが」


「すみませんでした。はい終わり」


「味気ないのう」


「そんな態度だと味気つける気も失せます」


「つまらんのう。まったく儂はこのところは生きているだけじゃ。死んでいけるものが羨ましくもなる」


「さすがにそれはどうかと思いますよ」


「愛ちゃんも儂のことは何も言わんかったはずじゃ。お互いにとってもはやどうでもいい存在であるゆえ仕方がないが。しかし、理想以下の扱いとは納得いかん」


「だって先生、あの人が死んでも泣かないでしょう?」


「まあ、そう、そうかもしれんのう」


「だからでしょう。あなたは命の価値を知らない。いや、違うな。知っているからこそ割り切れる。仕方ないで済ませたりする」


「よく分かるのう。まあ、間違いではないが、正確とも言えないの。死ねば輪廻を巡り、望めばまた私の元に生まれることもある。ゆえに私にとって死はただの別れではない」


「生まれ変わるとどうなるんですか」


「儂の子供たちは特別じゃが、それでも記憶を持ち越すことはほとんどないのう。顔も似てたりはしない。じゃがもっと根源的な部分、本質とでも呼ぶような部分が同じじゃ。身近な例を挙げると……、いや、これ言っていいものかのう」


「なんですか、もったいぶって」


「おぬしがよいならよいが、おぬしらの両親、その生まれ変わりが愛と勇気じゃ」


「……えっと、そんなこと言われても、困る」


「じゃからいったじゃろう」


「というか、うちの両親まだ生きてますよ。ぴんぴんしてます」


「輪廻に時間軸は関係ない。同じ時代に同じ魂が存在することは、まあ珍しいがないことではない。それだから、永遠を生きる私が最も時間に縛られる」


 自虐じみた台詞は彼女には珍しい。


「しかしこれからどんな顔して彼女らに会えばいいのか」


「しかしまあ、おぬしが気にするほどのことではあるまい。両親がそうでなければ、おぬしらもこんなことにはなっておらぬだろうとはいえ」


「どういうことです」


「おぬしらの両親は、どれだけ知っておるかは知らぬが、どちらも強力な超能力者だったはずじゃ。その融合の結果としてのおぬしでありおぬしの妹じゃ」


「それを知っていたならあなたにはもっとやり方があったのではないのですか」


「そうじゃな。じゃがおぬしらが生まれたことには儂の意図を超えた意味があるじゃろうし、それを見極める必要があるのじゃ」


「結局どんな意味があったのですか?」


「まだ分からん。じゃがそれほど悪いことにはなっておらんのではないかのう」


「そうかもしれません」


「結果論ではあるがの。終わりよければすべてよし。全くその通りじゃ」


「まだ終わってませんよ。これからも続いていくんです」


「そうじゃな。しかし、キリのいいところがあったらそれで一端終わりとしてもよいじゃろ。そこから先はまた別の話。おぬしの話と儂の話はもはや交わらぬかもしれぬ。じゃがそれがよい結末になることを祈っておるよ」


「いや、私たちはなんだかんだでずっと一緒にいる気がします」


「そうかもしれんのう。儂らは運命に縛られておる。それに抗うことはできるがしかし、巻き込まれることだけは変えられないものじゃ」


「私は運命の話をしているわけじゃないんですよ。私はここが心地よい。だからここにいる。それは多分変わりません。私の人生には多分あなたやみんながずっといる」


「気恥ずかしいことを言いおる。じゃが、まあ、そうしたいというのならそうするがよい。儂は本当のところは、おぬしらと関わり合いたくなんぞない。嫌いなわけではない。神が一カ所に何人もおって何も起こらぬ訳がない。面倒はどうしても起こる。しかしまあ、それくらい何とかするというのが、年長者としての矜持であり、教育者としての役割でもあろう」


「ありがとうございます。こんなこと言いましたが大学は都会に行くのでしなくてもいいですよ」


「そのままそっちでやりたいことを見つけて、普通の人間として生きていくのが一番幸せじゃろうよ」


「戻ってきますから」


「まあよい。どうせ儂は自分からは何もせん。いつまでもこの町にいる。だから、会いたくなれば来るがよい」


「愛さんにも会いに来ますよ。本人か、その生まれ変わりかは知らないですけど」


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