妹6
「お姉ちゃん!」
家に帰るなり抱きしめられた。あの日からずっとべたべたしている。
「おかえり」
そう言ってキスしてくる。当然のように口にだ。
「ただいま」
口を離してから言う。
「用事って何だったの?」
用事があると言って妹を先に帰らせた。だだをこねたがキスをして頼むと渋々といった感じで一人で帰って行く。
「みんなに会ってたんだよ。いろいろ言わなきゃいけないこともあったし」
「お前らのせいで大変だったんだぞって」
「逆だよ。謝ってきたんだ」
「お姉ちゃんが謝る必要なんてないんじゃない?」
「そういう訳にもいかない」
「みんな、別に気にしてなかったでしょ」
「そう、そうだったな。でも、だからといって無視も出来ない」
「そういうものかな」
「お前にも謝らなくてはいけない。ずっとずっと傷つけてきた。生まれてきてからずっと。肉体的にも精神的にも」
「そんなこと気にしなくていいんだよ。お姉ちゃんがいなくちゃ私はそもそも生きてない。私はお姉ちゃんに何をされても受け入れる。私はお姉ちゃんの奴隷だし、そうあるべきだと思う」
「お前がそんなこと気にする必要はないんだ。悪いのは全部私だ」
「それじゃあ、私は死んでいた方がよかった? あの醜いままの姿で、生まれることすらなく死んでいた方が幸せだったと思う?」
そう思ったことがないわけではない。しかし、それを言うことは出来なかった。
「そうは思わない」
「お姉ちゃんがそう答えるのなら、私は、奴隷のままだよ」
「もし、仮に、死んでいた方がよかったって答えたらどうする」
「だったら、私は私の自由意思ですぐさま自殺するよ」
「じゃあどうしろって言うんだ」
「どうもしなくていいよ。ただ私を私のまま受け止めて」
妹はまた私に抱きつく。
「ごめんなさい。この前は口答えなんかしちゃって」
「私が悪いんだよいつだって私が。すまなかった」
「謝る必要なんてないよ。でもそれじゃあ気が済まないって言うなら、前にお姉ちゃんが毎日私にしていたことを、今度は私がお姉ちゃんにしてあげる」
「そ、それはちょっと」
「遠慮しなくていいんだよ。お姉ちゃんが愛を確かめたのと同じやり方で、私もお姉ちゃんを愛してあげる」
私は恐怖を感じていて、そんなことは絶対にごめんだと思っていた。それはつまり反省も謝罪も口だけだったという証左に他ならない。私は神でも聖人でもなくただの一人の身勝手な人間だ。
「でも、お前も、肉親を自分の手で傷つけるなんてしたくないだろう」
「それはつまりお姉ちゃんは私のために嫌なことをしてくれていたってことでしょう? なんてすてきな自慢のお姉ちゃん。私もそれに報いなくちゃね。大丈夫、心配しないで私は全然お姉ちゃんを傷つけることに抵抗なんてないよ。むしろどんどんやりたいくらい」
目はきらきらとしてうれしそうだ。奴隷だの言うのは全部嘘で、実際はとても恨まれているのかもしれない。それともただやりたいだけかもしれない。いずれにせよそれは喜ばしいことだ。自分の欲望を建前に隠す。それは何とも人間的だ。
だから私はそれを受け入れることにした。ようやく覚悟が決まった。何かの義務ではなく、彼女自身がやりたいのであれば私にはそれを受け入れる義務がある。
偉そうなことを言ったが、実はされる方にも興味がある。それはほんの少しだけ事実だ。
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