🗝️第5章 第30話:“最後の一言”で差がつく選挙

──“一言”の重み=選挙後も残る印象形成の物語


開票、15分前。

Skulinkの「選挙専用チャンネル」は、

候補者それぞれの“最後の一言”を表示していた。


誰もが結果を待ちながら、

何かを思い返していた。


演説も、政策も、SNSも、グッズも、動画も──

それらすべての記憶を束ねて、

最後に人々の胸に残ったのは、たった“一言”だった。


📺御門律の最終投稿:

「私は、正しい選択をしてきたと信じています。

今後も、正しさを軸に行動するつもりです」


理路整然。曖昧さなし。

一分の隙もない完璧な閉じ方。

だが──その“余白のなさ”が、誰にも“余韻”を残さなかった。


📱陣内颯太の最終投稿:

「選んでくれたら、嬉しいです。

でも、選ばれなくても、俺はあなたの声を忘れません。

この選挙に出てよかった。ありがとう」


それは、どこまでも不完全で、感情的で、ひとりの人間の言葉だった。


Skulinkのコメント欄が、少しずつ動き出す。


「あの“ありがとう”が、ずっと残ってる」

「“選ばれなくても”って言ったとき、泣いた」

「なんか……“自分ごと”って感じがしたんだよな」


そして、投票が締め切られる。


AIによる即時集計。

数字が弾かれ、信頼ポイントが加味され、全データが処理される。


そして、静かに発表された。


【生徒会選挙 開票結果】

陣内颯太:50.25%

御門律 :49.75%


たった0.5%の差。

けれどその0.5%は、演説でも政策でもなく、

“最後の一言”がつけた差だった。


控室に静かに響く、メティスの声。


『勝因の主因を解析中……』

『最終投稿に対する“感情共鳴指数”が、最も高く評価されました』

『特に“ありがとう”という語の滞留時間、再読率が他の投稿の2.4倍』

『……この一言が、勝敗を分けました』


「“ありがとう”で……勝った、のか」


颯太は、どこか呆けたように笑った。


『“勝つ言葉”ではなく、“残る言葉”です』

『それは、AIの予測では弾き出せない変数でした』


御門の控室では、オルクスが淡々と報告していた。


《敗因分析中……》

《該当候補の最終投稿は、合理性・正当性の面では最高評価。

 しかし“感情共鳴値”は最低評価》

《共鳴要素:欠落》


御門は、その報告を聞きながら、ただ小さくつぶやいた。


「……“ありがとう”か。

俺の言葉には、それがなかった」


その日、選挙は終わった。


でも、誰の胸にも、残っていたのは──

最後に聞いた“たった一言”だった。


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