第16話:おい莫迦やめろこの転生者は早くも終了ですね(前)

  うーむ。

「どう? 保波。何か読めそうな文字とかあるかしら?」

  眼前にあるのは子供向けの、とはいえ絵本では無く、いわゆる児童文学書。ただ、対象年齢は今の肉体年齢や知的年齢よりはかなり高めらしく、真名こと漢字だらけで書かれており、女文字こと仮名の振り字ことルビも存在しないため私が本来読める文献ではない。

  とはいえ、エングリシア語よりは遙かに楽だ。文法は恐らく漢文方式ながら単語も面影が残っているものが多いから、知性と戦術眼を駆使したら、難しいながらも読めないことはない。

「……大体は読めるかも。とはいえ、真名まなだらけの文献は難しいかな」

「あらあら、真名は殿方の使う文字よ? ……でも、「難しい」ってことは、読めるのね」

「文字自体は。並び方が大和言葉と違うみたいだから何か印でも付けないと読みづらくて仕方ないかなって」

  とりあえず、レ点とか一、二点は付けておかないと面倒くさい。というか、この世界にもあるのな、支那……。早めに分割させておかないと。

「あらあらまあまあ、真名を女生が読めるだけでも凄いわよ? あたしが真名を読めるようになった年に比べたら早い早い」

「そうなの?」

  あれ、この世界の母親って何歳でこの文献読めたんだろ。やっぱ対象年齢か?

「ええ。それに女生が真名を使えるのは相当希よ? あたしは一応、仕事の関係で勉強したけども、それだって魔法が使えるようになってからだもの。それじゃ、この問題はわかるかしら?」

「?」

  お母様が書いているのは……。漢数字らしきものからして、算術か。

「……ええと……。数字はわかるんだけど、四則演算の記号がわかんない」

「……数字は読めるのね……。ええと、「加減乗除」って言えば判るかしら」

「ああ! ……と、いうことは、これは……」

「ええ、八三加だから、[十一]11が一つの文字ね」

  ……うん? さっき11のことなんつったこの人。てーか、そうか、つまりは書き方は 「83+?=X」ではなく「8と3を+なら=X」か。と、いうことは逆ポーランド式だな。

「えっ、八十三に何か加えるんじゃなくて?」

「……えーと、八十三悟參八十三悟參よね?」

「……?」

  いや、だから83をなんで53とか言うし。……ん? 3は3だから、80を50と言うって事は……?

「……保波にはまだ早かったかしら……」

「いえ?そういうことであれば、つまりはこういうことですよね?」

  と、書くものをせがんで式を一つ書いてみた。一応、現代算数的に言うと9-9=0なんだけど、10はどうやらAだろうからひとまず0~9までにしておこう。

「……保波」

「はい?」

「ええと、「そら」って何かしら?」

「九九減は九から九を引くわけで、答えは何も無くなるわけですから「くう」ですよね?」

「…………」

「?」

 ……垣屋保波の起源は転生者である。転生者というのは、基本的に巨人の肩に乗っているものである。故に、知識をひけらかすことはなかったとしても、としてそうなることもある。さて、「ゼロ」という知識を披露した彼女の運命やいかに。

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