第48話 ウラノス、瞑想の間にて
瞑想の間は本宮の最西端、天空塔の最上階にある。
皇帝ウラノスだけが立ちいることの出来る特殊な場所だ。
――静かだな……。今夜も動かないのか?
ウラノスは瞑想の間で過ごしながら、外の気配をうかがっている。断食は昨日から始めたが、何の変化もなく拍子抜けだ。
今かいまかと待っているのに、なかなか来て貰えない。
――早く来い。レクアム、フェリオス。
ウラノスはずっと待っている。
息子たちが自分を殺しに来るのを。
自分が父を殺して皇帝になったように、息子たちにも限界を超えてほしい。ひとは極限の恐怖を乗り越えたときに最も強くなれる。痛みもなにも感じない、迷いを捨てた世界へたどり着ける。
この境地を見いだしたのはいつだったろう?
最初は毒の苦しみから逃れたい一心だったが、毒はウラノスに怯えを植えつけただけだった。食事のたびに恐怖を味わい、疑心暗鬼におちいった。
転機が訪れたのは15のとき。
皇帝だった父が六人の皇子を闘技場にあつめ、玉座から言い放ったのだ。
『さあ、殺しあえ。生き残った者に皇帝の座をやろう』
最悪なことに、ウラノスは最年少の皇子だった。兄たちはいちばん小さなウラノスに容赦なく襲いかかり、剣で斬りつけてくる。
小さな体をいかして逃げ続け、せまい場所に兄を追い込んで殺した。それをくり返している内に、いつの間にかウラノスだけが残った。
――あれは最高だったな……。あの時の生きる喜びを、また味わいたい。
皇子同士の殺し合いは、魂が震えるような至上の喜びを感じた。
もう駄目だ、死ぬと覚悟してからの生還。最高だ。絶体絶命の状況で生き延びたときこそ、最も『生きている』と実感できる。
だから今、断食という危険な状況を作り出して待っているのだ。
弱った自分が息子たちにどれだけ抵抗できるか、楽しみで仕方がない。断食を終えたとき、ウラノスは更なる強さを得ているだろう。神に匹敵するほどに。
瞑想するウラノスの耳が、かすかな音を聞きつけた。
出入り口に立つ見張りを誰かが倒したようだ。塔をのぼる足音がする。四――いや、五人か。
「やっと来てくれたか。待ち焦がれたぞ……!」
立ち上がり、床に置いた剣を取る。
扉が蹴やぶられ、塔の最上階を占める広い室内に五人の青年が現れた。
「やはりおまえだったか――レクアムよ」
四人の側近に囲まれて立つレクアムは、悲しそうに微笑んでいた。
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