ナイチンゲール
お願い
この回は、できましたら コレ↓ ↓ ↓
https://www.youtube.com/watch?v=Xq6S7KbAxnE
《Nightingale · The Oscar Peterson Trio》
をBGMに読んでくださるととてもうれしいです。
ピーターソンおじさんが奏でる、
“乙女の胸の高鳴り”を是非お聞きください(ナカムラ主観)
――――――――――――――
杏は定時上がりでロッカーに直行する。
「舎利倉さん、今日、飲みに行かない?」
背後から声をかけられる。振り返って、一瞬だけ間を置く。
「ごめん。今日は急ぎで。また今度さそって、ね」
コートを引っかけて、ロッカールームを出る。
視線が、背中に集まる。
「ねえ、あの感じ、絶対なんかあるよね」
「あー、舎利倉さん、三年ぶりに彼氏と再会なんだって」
「ドイツ帰りの?」
「そう。しかも初恋って聞いた」
「うそ。純愛映画かよ」
「今夜はしっぽり、ラブラブナイトだね~」
「しっぽりとか、昭和のBBA?」
「でもさ、舎利倉さん身持ち堅いから、アッチもしばらくぶりなんだろうなあ」
「ちょっと、やめなよ。……でも、ずっとしてないと、…どうなるん?」
「あー、今日個室だから、猥談はそっちでやろうよー」
「よし、いこいこ!」
職場を出てすぐ、足が早まる。
夕暮れの歩道。コートの裾が揺れる。
ビルの谷間から見える空はもう、残照から群青に変わっている。
カウントダウンがはじまった歩行者信号、強引に渡る。
そして渡り終わっても、その勢いのまま駆ける。
下ろしたてのモーションパンプスが乾いた音でアスファルトを叩く。
通りの風景を置き去りにして走る。もう足が、止まれない。
ビルの間の遊歩道で男の子がスケボー抱えて警備員に追っかけられてる。
電柱に貼ってあるステッカーのひとつが目に飛び込む。ぎょっとする。
オペラピンクのロゴで《Hello Anne》!!
地雷系の女子がカフェの外で電話中。マスカラがにじんでいる。
「もういい、バイバイ…」の声、スマホを抱えてしゃがみ込む。
その隣ではメニューボードを見ているカップル。
がっつり恋人繋ぎ、ラブラブでいちゃいちゃ。
塾のリュックを背負った背格好がデコボコな小学生三人がふざけながら
急いで走っていく。胸元でパスケースが踊ってた。
雑踏の駅前。人、人、人。その中を杏は駆け抜けていった。
杏は、なんだか、PVみたいだと思う。
――この街の今日の主役は、わたしだ。
ペデストリアンデッキに駆け上がってまた下る。
雑踏の中央コンコースを抜けると、視界が一気に開ける。
広場。人の流れがばらけ、壁画が正面に現れる。
――いた。
わたしの愛しい人。
「真秀くん!」
「杏!」
まわりの音がフェードアウトする。
駅のアナウンスも、足音も、ざわめきも、すべて。
杏は止まらず駆ける。
スカートが舞う。すらりとした腕が伸びる。
そうしてそのまま、真秀の胸に飛び込んだ。
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