ペントハウスと土砂降り……
八月の終わり。
わたしは初めて、真秀くんの“趣味部屋”に足を踏み入れた。
場所は屋上のペントハウス。
中に入ると、スチール棚と作業机が並ぶ、ちょっと無骨な前室があった。ここで、頼まれた工作なんかをしてるらしい。
「男子の作業室って感じ」
そう言うと、真秀くんは
「趣味部屋だからね」
と笑った。
アコーディオンカーテンの向こう側は、ガラリと雰囲気が変わる。
モニターとスピーカー、オーディオ機材が整然と置かれた板張りの空間。家具らしい家具はビーズクッションがひとつだけ。音楽を聴くためだけに設えた、そんな部屋だった。
ペントハウスの壁から木枠と細い柱が立っていて、タープが張れるようになっている。
あと、作業部屋の向こう側にすごく変なものがあった。
FRP製の小さなカプセルみたいな物体。
なんとお風呂でした。
昭和の遺物、信じられないような製品だ。小さな洗い場と湯船がカプセルの超狭い空間に入ってる。ちゃんと“お風呂”なのが笑える。
「わあ。これ……入ってみたいな」
冗談半分で言ってみたら、
「え? いいよ。そこの太陽光温水器からお湯入れるだけだから」
あっさりOKされた。
「ほんと? じゃあ、そのうち、いつかにお願いします」
屋上のペントハウスというだけでワクワクするのに面白すぎる!
「うちがここ買った時にはもうこうだったんだ。店は昔、喫茶店だったんだって。屋上はマスターの趣味だったらしい。向こうにサウナ小屋もあるよ、簡易トイレみたく狭いけどね」
「え、サウナ?入れるの?」
「長い事放置してあるから、掃除しないと無理」
「手伝う手伝う、掃除手伝うから」
「秋になって涼しくなったらね。あ、水着着用ですよ」
裸族回避、了解です。
見学がひと段落したところで、今日のメインイベント――オーディオタイムが始まった。
「このクッションのとこに座って」
左右のスピーカーとビーズクッション上のわたしがちょうど三角形になる配置。
“リスニングポイント”ってやつらしい。
「今日は藤井風の、デビューの2〜3年前に録ったっていうカバーを二曲。たぶんステレオマイク一発録音。すごく生々しいよ」
一曲目はカーペンターズの『We've Only Just Begun』だった。
「名曲! めっちゃいい! それはともかく、ステレオ再生ってすごいんだね……!」
目を閉じると、そこに藤井くんが“いる”みたい。
呼吸のニュアンスまで伝わってくる、生の音。空間ごと再生されてるみたいだった。
「ね、生々しいでしょ。ステレオマイクの一発録りは、音の奥行きが全然違うんだよ。ヘッドフォンは細かい音は拾えるけど、音の“空間”は再生できない。耳と耳の間に点で定位しちゃうからね。じゃ、次も藤井風」
二曲目は『Close To You(遥かなる影)』
「はぁ……これ、ママが大好きで、わたしも小さい頃から聴いてた曲。風くん,歌ごころが凄すぎ……」
「うん、アマチュア時代も今とそんなに変わらないよね」
その後も色々ボーカル物を中心に聴かせてもらった。
「うん……ステレオって楽しいね。それに音楽だけにちゃんと向き合うのって、すごく新鮮」
「でもさ、ながら聴きには向かないんだよね。音は漏れるし、聴く場所もピンポイント限定でしょ、そりゃ廃れるって」
「分かる。修行だね、これ」
笑い合ったその頃には、外がすっかり暗くなってきていた。まだ午前11時だよ。
ドアを開けると、近くまで黒い雲が迫っていて、風が冷たい。
そして――ぼたぼた、ぼたっと大粒の雨が降り出した。
「土砂降りになりそう。下行こうか?」
「ううん、面白いから……もうちょっと、ここにいようよ」
そのうち、あっという間にスコール。
ペントハウスの窓に、ふたり並んで外を眺める。
昼間なのに、夜明け前みたいに暗くなって。
屋上は、ざあざあと雨音に包まれていた
「なんか……世界に二人っきりみたいだね」
ぽつりと言うと、真秀くんは、笑いながらわたしの肩を抱いた。雨音が轟音なので、耳元に口を寄せて話した。
「雨の音ってさ、人の声も車の音も全部消してくれるよね」
真秀くんはうなずいた。
たしかに、今ここには雨音しかなくて、わたしたち以外、誰もいない。
空は黒く、外の風景もぼやけている。雨粒がカーテンみたいに垂れていて、この屋上の小さな世界はきれいに切り離されていた。
ふたりだけの世界。
「ねえ、真秀くん」
わたしが顔を向けると、彼も同じタイミングでわたしを見た。
目が合う。わたしの奥に揺らぐ欲情が、彼の瞳にも確かに見えた。
そのまま、自然に――
彼の手がわたしの顎を掴む。そのまま上を向かされた。
雨音が遠くなった気がした。
そのままディープキス。彼の舌が遠慮なく入ってくる。わたしの舌と行き合う、絡めとられる、唾液が溢れる。
いきなり口と体が離されて所在のなさに切なくなる。
真秀くんはドアにカギを掛けて窓のカーテンを引く。わたしはアコーディオンカーテンの向こうに引っぱって行かれた。
部屋の真ん中で一度ぎゅっと抱きしめられると、すぐに離れて、羽織っていたシャツごとブラトップを肩から外された。上が中途半端に脱がされたまま、スカートもショーツもはぎ取られた。
乳房を下から掬い上げられて突起を吸われて、わたしは思わず真秀くんの頭を抱きかかえた。尖った快感が走る。
この夏休みでわたしはすっかり“おんな”になってしまったから、この快感がもたらしたものに下半身も切なくなって、腿をすり合わせて耐える。そしたら真秀くんの大きな手がわたしの足の間にするりと差し込まれた。
あわいめをなぞられて、思わず彼の手を両手で掴んだ。やめてほしいわけじゃなくて、ただ反射のように。そうしたらもう片方の手が後ろから入ってきて、結局わたしは彼にいいようにされてしまう。
足の力が入らなくて、ずるずるとくずおれた。真秀くんはベイカーパンツを脱ぎ捨ててスキンを付けると、わたしの腰を後ろから掴んだ。
わたしはすっかりとろけ切っていたので、彼をなんなく受け入れてしまう。
外は土砂降り、雨音が耳を突く。それがさらに欲情を呼んで、わたしたちは激しく交わった。
膝が抜けてべちゃりと床に潰された。お尻に圧し掛かられて激しく突かれる。
「真秀っ!いつもみたいにしてえ!!」
わたしが叫んだら、彼はわたしを完膚なく圧し潰してくれた。
そのまま肩口に首を掛けてわたしの耳元に唇を寄せると、今日ばかりは大きな声で言う。
「杏!お前の全部は僕のものだっ!言え!言ってみろっ!」
わたしも雨音にかこつけて、大きな声で叫んだ。
「は、はふぅ……あ、杏は全部、真秀のものだよっ!」
わたしの叫びを受けて、抽挿が激しくなる。めちゃくちゃに興奮して口からは意味のない言葉が漏れる。
真秀くんが耳元で切羽詰まった声で、
「杏!大好きだ!」
と叫んだあと、腰を思い切り突き込んで、わたしの耳を噛んだ。ダメっ。
「あああ―――――っ!!」
大きな声で、わたしは達したという事を叫んだ。……気持ちいいっ
「杏、杏、湯張ったから、風呂入りなよ」
引っぱり起されて、作業室の裏戸からカプセル風呂に入った。
雨はピークを過ぎていた。じき止むかなあ。
床を拭き掃除してくれた真秀くんがお風呂にシャワー使いに来て(さすがに二人は無理。わたしだけでも屈葬状態だw)、わたしのいたずら心で違うプレイが始まっちゃったのは、まあ仕方ないよね。
―――――――――――――――――
藤井風 『We've Only Just Begun』
https://www.youtube.com/watch?v=VkUwZZKUMtU&list=PL1_JWkvN1pu_ay8TN2YOhYVUapViIw-sL&index=34
藤井風 『Close To You』
https://www.youtube.com/watch?v=h9rbZINm8UU&list=PL1_JWkvN1pu_ay8TN2YOhYVUapViIw-sL&index=31
風くんのアマチュア時代のカバーがyoutubeに沢山あります。
ふざけた曲もあるけど、名曲のカバーは力はいってます。
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