初体験
ベッドの上で、もう一度――とお願いすると、真秀くんは照れくさそうに笑って、でもすぐに応えてくれた。
重なった唇が熱い。すごく深く、盛り上がってしまった。
舌が触れて、絡まって、甘い息がこぼれる。唾液が行ったり来たりして、二人の境界線が壊れてゆく。
キスの魔法。気持ちの奥底まで甘いもので満たされてタブタブになっちゃう。
真秀くんのキスは、唇だけに留まらないで体中に広がっていった。
乳首、乳輪、鎖骨、おへそも肩甲骨も背骨もお尻も。
神経がぜんぶ繋がっている。接続先はすべてアソコ。
彼の指先に、舌に、わたしはわたしだけの秘め事をさらけ出した。
「こんなに感じるなんて、変……」
出した声がかすれてた。
「んー、全然。てか愛おしいよ」
真秀くんの腕で、わたしは人形みたいに楽々と姿勢を変えられてしまう。
「あ、匂い嗅がないで」
「無理」
体中の部分が繋がってて違うところに信号を伝えてる。じゃあ同じ所ならどうなっちゃうのか。
暖かくて湿った真秀くんの厚い舌の優しい動きが私を融かす。
足が思わずピンと伸びて、ふっと力が抜けた瞬間――上げた腰が、かくんと崩れた。
わたしがゆるゆるになって惚けている間に、真秀くんが付け終わってた。
両足を優しく開かれて、真秀くんのアレがそっと押し当てられた。くぷりとくびれまでが入っちゃう。滑らかすぎてあれーって思ってたら、その後にピリッと痛みが来た!
「痛たーい!」
「止めようか?」
とんでもなーい。
両手を伸ばして、おねだりする。
「クマちゃん抱っこして」
優しく抱き上げられて、ずぷりと深く収まってしまった。そのまましばらく抱きついてたらだんだん慣れたのかそんなに痛くはなくなった。
「もういいよ、大丈夫」
そういうとくるりと体を入れ替えられた。
「ごめん、止められない」
わたしにのしかからないよう腕で支えてくれてるけど、違うんだよ。逆なんだ。
「真秀くん、いいよ。体重掛けても大丈夫」
そうして欲しい。
「でも、重いよ」
「いいから、押しつぶしても大丈夫だから!」
真秀くんがおずおずと体重をかけてくる。わたしもぎゅーっと抱き締めかえして答えた。
全然身動きできないくらいのしかかられて、わたしはめちゃめちゃに興奮した。わたし《でぶ専》なんだ。大きくて太った人に性的興奮を覚えるヘンタイなんだ。
分かってたことだけど、事に及んで認めたら頭のどっかが振り切れちゃった。軽い窒息感に、ヘンタイの蟲が騒いで性感が尖って弾ける。
「まさひでくん!あ、あ、あ――――――っ!」
「杏、行くよ!」
わけわかんなくなった。真秀くんが深く押し込んできてびくびくと震えてるのだけはわかったけど。
真秀くんが頭をなでなでしてくれてる。気持ちいい。ゆーらゆら、たゆたってる。
と、無粋にアラームが鳴り響いた。
「……あ、もうこんな時間」
「まじか……」
体を起こす、まだけだるい。
ベットからころりと降りて、素っ裸で猫のポーズ。
「なになに、猫?」
「うん、起床スイッチ。さあ、起きますよー」
パンティ拾ってからライナーを付けて…。シャンブレーのワンピース着たらすっかり元通り。髪はささっとミニブラシを通した。あとは洗面所で直すよ。
「いや、完全に時間感覚なくなってたもんなあ」
真秀くんも着替え終わった。
「さあ、オーブン温めようか」
「うん。台所行こ行こ」
ふたりで部屋を出たとたん、なんだか笑いが込み上げてきた。ついさっきまでのことを思い返して、頬がゆるむ。
「どうしたの?」
「だって、部屋の中ではあんなことしてこんなことして、だのにドア開けたら、もう何事もなかったかのようにお昼モードって……なんか、とぼけた雰囲気じゃないですか?」
「言われてみれば、そうかも。でも……杏はほんと、お気楽だよな」
「えっ、それ、真秀くんに言われたくない。お気楽なのは真秀くんでしょ」
笑いながら、彼の大きな背中をぐいぐい押して、キッチンに向かう。ぬくもりも感触もまだ少し肌に残っていて、でも気持ちはちゃんと日常に戻っていた。
グラタンランチは、お二人に絶賛された。やったあ。
お母さんがひと口食べた瞬間、目を丸くして言った。
「作ってもらった、っていうところがツボなのに、ほんとに美味しくできてる!倍おいしい!」
その言葉に、ふたりで顔を見合わせて小さく笑った。
前に「プロの料理人でも、家庭料理は別の口だよ」って聞いたことがあったけど、こういうことかもしれない。誰かと一緒に作って、一緒に食べるだけで、味がふくらむ。
ジャーサラダも好評だった。瓶を振って、勢いよく皿に開けたら、ドレッシングが鮮やかに絡んで、食卓が一気に華やかになった。
「わあ、見た目もかわいいのね」
って驚いてくれて、ちょっと鼻が高かった。
保存も効くし、盛りつけも楽だし、なにより気軽に分け合えるのがいいんだよね。
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