第3話 行動する前に考えよう
夏。それは強い日射が大地を照らし、青々とした木々が生き生きとある季節。
そんな生物の楽園で、俺は飢えていた。
何故こんなことに...。俺は数時間前の自身を恨んだ。
ーーー
ーー
ー
時は俺が4回目の転生をしてから数分。俺は地べた座り込み、今後の行動について考えていた。
「何すっかなぁ。どーする?フレン。」
愛しのフレンに話しかける。勿論返事はない。彼は木の枝で出来た人形なのだから。
「そもそもこの世界がどんな感じなのか知る必要があるよなぁ。」
転生するにあたって、面倒くさいのがコレである。ここ、どういう世界なの問題だ。実は今、昼のようで夜だったとかワンチャン有り得る。そんな世界がある事は、以前の転生で確認済みだ。
「やっぱり通例通りに、街に行くしかないかぁ。」
至極面倒くさい。なにせ街何処やねん状態。適当に歩き回って見つけるのは難しい。誰か手頃な人を見繕って、街への方角を聞くしかない。
「めんどくさっ…。」
今後の大変さに、俺は思わず溜息を漏らした。
「暑いぜ、ちくしょう。」
無性に喉が渇く。先程から歩いても歩いても草原しか見えない。俺はあまりの喉の渇きに、水筒を取り出した。兎の皮で作られたそれは、一回目の転生で俺が作ったものだ。なんとも丈夫なもので、もうかれこれ8年持っている。物持ち良いな、いやマジで。
一時期は新しい水筒を買うことさえ考えたが、愛着が湧いて捨てるに捨てられなかった。
水筒に口をつけ、水を飲もうとする...が...、
「え?」
幾ら振れども、水一滴たりとも降ってこない。
「空、だと...!?」
ー絶望。
酷く喉が渇いているのに、水筒に水は入っていない。完璧にお預け状態だ。俺の体は砂のように崩れ落ちた。
「う、嘘だろ...?」
嘘って言ってくれ!!俺の願いは儚く散った。
やはり振っても水はない。何度確認したって、無いものはないのだ。
「ああああああああぁぁぁ!!!」
俺は嘆き、叫んだ。
喉を痛めて余計に水が欲しくなった。
現段階で1番大切なのは水である。とりあえず魔法が使えるかどうかの確認で、水を生み出す呪文を唱えてみようではないか。そもそも世界が違うので、出来る確率はだいぶ低い。
「これしか望みがねぇんだ...!!」
俺は魔力を込めて唱える。
「我命ずるは魂の恵!!」
ー・・・。音沙汰がない。
あー、終わった。ハイハイ、終わったわ。俺もう死ぬわ。俺はもう絶望に苛まれた。
「俺、ここで死ぬのか...?」
絶対嫌すぎる。なんで転生先ですぐに死なないといけないのだ。
「最悪だ。幸先悪すぎだろ...。」
果てしない草原をただただ歩く。話す事もなければ、考えることもない。ただただ無言で歩き続ける。その様はまるで人形だ。
俺は水に飢えていた。飢えていたからこそ、気がついた。すん、と鼻を鳴らして匂いを嗅ぎつける。土が香る中に、微かに雨の匂いがした。
「…え?」
空に大きな雲が突然現れ、そして、土砂降りを降らせた。それはもうバケツをひっくり返したような勢いで。
「えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
もはや痛みさえ感じるレベルの雨だ。肌に叩かれたような赤みが出る。
「え?んだよこれ!!痛い痛い痛い!!」
いや、まじでなにこれ。俺はしかしこれをチャンスだと思った。鞄から木製のコップを取り出し両手に構え、大口を開けて空を仰いだ。
意地汚く生きる。それが、俺の生き様だ!!
恵みの雨が喉を潤す。というか、潤すとかそんな生易しいレベルじゃない。雨の中で溺れかけるといった方がいい。
「あばばばばば...。」
口いっぱいに水を含んで飲みまくる。そして、そのまま息が出来なくなって、俺は気を失った。
「あの、...さい!」
遠くで女が俺を呼ぶ声がする。美人だったらいいなぁ。こういうののお決まりだもの。
すっと意識が戻っていく感覚がして、俺は目覚めた。瞼をゆるりと持ち上げ、霞んだ視界の中、自分を揺すっているのは髪の長い女だとわかった。
「あ!起きましたか!!」
女は嬉しそうに声をあげた。綺麗な茶髪が揺れる。俺はなぜ気を失っていたのか分からず、あたまにクエスチョンマークが浮かぶ。お嬢さん誰?てか、なぜ俺はこんな美人転生特典を貰ってるんだ?わからん。お手上げだ。
「あなた、雨で溺れてたんですからね。」
「へ?」
いや、雨で溺れるってなんだよ。お嬢さんあたま逝ってんのか?
「へ?じゃないですよ!!あなた、私の魔法で雨を振らせたら、雲の下に飛び込んで口を開けて水を飲みすぎて溺れたんですよ!!」
「情報量多くね?てか、俺が気を失ったのお前のせいかよ!!謝れよ!!」
「はぁ!?他人が魔法を使ってる時に飛び込むバカがどこにいるんですか!!」
女は声を荒らげた。ただ、俺も負けていない。
「お前のせいで気を失ったんだよ!!謝れ!!」
「そもそも他人が魔法を使っている時は、近づき過ぎないのが常識でしょ!?私の魔法は遠くからでも見えるはずよ。貴方が勝手に飛び込んで来たんのが悪いわ。」
「い、いやそれは...。」
クソ、このままだと口論で負ける。俺はギリっと歯ぎしりする。
「まあ、でもあなたの言い分も分からなくはないわ。私の魔法で気を失ったのだし。謝るわ。ごめんなさい。」
女は謝った。頭を下げるようなことはしなかったが。
「まあ、俺も水飲めて助かったし...。もうこれ以上は何も言わない。」
女は怪訝そうに片眉をあげた。
「あなた、今なんて言ったのよ?」
「え?もう何も言わないって。」
「その前!!」
女は凄い剣幕で言った。俺は情けなく、ひえぇとか言ってしまった。恥ずかしい。
「水飲めて良かったっていいました。」
「水飲めてって...。あなた私の魔法の下に入ってきたのって水を飲むためなの!?」
「ああ、そうだが。」
「はぁ!?馬鹿じゃない?」
「誰が馬鹿だコノヤロウ。」
売り言葉に買い言葉。お互い譲る気配がない。女は俺をじろりと上から下まで見物した。おい、照れるじゃないか。
「あなたって旅人なの?」
「まあ、そうだな。途中で水が無くなって死にかけてた時に、恵みの雨が降ったから飲んだ。」
「うわぁ。」
女は俺を見て引いていた。それから少し離れて杖を持つと立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「キエルよ。」
「キエル...?」
何その物騒な名称。俺は首を傾げる。
「あなた知らないの?ここらで1番大きな街なんだけど。」
女は不思議そうにする。マズい!怪しまれる。
「お、俺もそこに行こうと思ってたんだよ!」
怪しさ満点だ。もうどうにでもなれ!と俺は思ってしまった。
「良かったら、一緒に行くとか...どうっすか?」
俺は女にそう言う。俺はキエルの場所を知らない。それなれば、1番の手がかりである女について行くのがいい。しかし、女の返事はノーであった。
「無理よ。そもそも、あなたは旅途中で水が無くなったんでしょ?それなら補給しないといけないじゃない。キエルはここから歩いて5日はかかるわよ。あなたに合わせてあげられるほど、私は暇じゃないの。」
女はそう言った。マジか、5日掛かるのか。ショックで頭がバカになりそうだ。
「それじゃ、私行くから。」
女は置いてあった杖を拾い、肩からリュックを背負い去ろうとする。
まずい。今ここで何の情報もなしに放り出されたら今度こそ死ぬ。
死の危険に、俺は焦りに焦った。
そして、俺は自分がすべき行動を小さくて阿呆な脳から絞り出した。
「えっと、あの、1番近い街を教えて下さい...。」
あまりに情けない声で、俺は女に泣きついたのだった。
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