第4話 人生は予想外だらけすぎる
アンジェールという町は酷く小さく、そして寂れていた。
俺が泣きついた女が仕方なしと言わんばかりの顔をして教えてくれた町だが、もっといい町を教えてくれたっていいのに。しかし1番近い町はここなのだ。俺は溜息をついた。
町の端は土道だった。家同士の距離が遠く、the田舎っていう感じだ。「ようこそアンジェールへ」と書いてある小さな木製看板も、支えが朽ちて今にも倒れそうだ。
「なんだかなぁ。」
パッとしない町。それが俺がアンジェールに抱いた感想だった。
町の端から少し行くと、石畳の道のご登場だ。家の数も増えてきて、町という感じが出る。正直、さっきまでの風景は村って感じだった。
「とりあえず、金を稼がないと。」
今の俺は無一文。先ずは稼ぐ必要があった。
「金を売るか。」
さて、俺が取り出したるは金に輝く硬貨。なんだ、お前金持ってんじゃんと思われそうだがそれは少し違う。確かに俺は金を持っている。だが、この世界の金ではない。俺の以前いた世界の金だ。金は金属で出来ている事が多い。そのため、硬貨自体に価値が着く。特に、金や銀で作られた硬貨は高く売れやすい。
俺は初期資金をこうして手に入れる事にした。
「すみません、質屋とかご存知ありませんか?」
道すがら色々な人々に声をかける。人と言うものはいいもので、こう下手に出れば大体のことは教えてくれる。ちょろくて好きだ。
「ああ、質屋ね。そこの角を右に曲がると小さな木製の看板が出ているはずさ。」
「あら、質屋に行きたいのね。そこをまっすぐいくとあるわよ。」
俺はお礼を言いつつ、歩みを進めた。しかし、衝撃的な出来事が起きた。
「...なんでだよッ!!!」
質屋が二軒、お向さんにあるじゃないか。なぜそこ?なぜ被った...。しかももうちょっと行けばもう1軒見える。ここは質屋の聖地なのかな??
兎に角、どこが1番高く売れるかが問題だ。
「さぁて、どっちから入るかだな。」
俺は向かい合った二軒を睨む。奥のはもう行かなくてもいい。面倒臭いからパスだ。
「神に決めて貰うか…。」
俺は落ちていた枝を拾い、立ててみる。そして、手を離した。
ー枝は、奥の店を指していた。
「...なんで!?」
まあ、神の決められた事だ。俺がとやかく言う必要は無い。お告げ通りに奥の店に行くとしよう。ちなみに俺は無宗教者だ。神様、俺は別に無神論を推してる訳じゃないので、たまには頼らせてね。心の中でそう呟いた。
なんとも古ぼけた質屋だろう。俺は足を踏み入れた瞬間に、そう感じた。ドアはギギィと錆びた様な音がする。踏み入れた床はギシッっと音を立てた。
「こ、こんにちはー。」
中があまりに暗いので、俺は怯えつつも声をかける。そもそもやってんの?レベルだ。
「ほいほい、いらっしゃい。」
人いたわ。小柄な爺さんが座っていた。頭頂部の毛が、店と同じくらい寂しい。シワにまみれた顔は、爺さんが笑うとくしゃりとした。
「あの、買取ってできますか。」
「出来ますよ。」
第1関門突破。
「コレなんですけど...。」
俺はカバンから硬貨を100枚ほど取り出した。圧巻の量だ。
「なんだい?コレは...。」
質屋の爺さんは1枚の硬貨を手に取り、虫眼鏡を近づけてジッと見つめた
「えっと、金・銀で出来てるんですけど。幾らくらいになりますかね?」
「金、銀?」
「はい。」
さあ、第2関門だ。一体幾らになるんだ。俺は値上げさせる準備をする。心は大丈夫だ!!
ー見せてやる、俺の値上げの腕前を。
「こんなもん買い取れないよ。」
「へ?」
何言ってんだ、この爺さん。金と銀だぞ?
俺は爺さんの言葉を聞いて、訝しげに表情を歪めた。
「だから、金、銀は買い取れんって言ってるんだ。」
「はあ。なぜ...?」
俺は爺さんに問う。
「何言ってるんだ、お客さん。金、銀なんてそこらじゅうで取れるだろうが!こんなもん、道端の石を持ち込んでるのと一緒だぞ!!」
ーー大ショックだ。
俺は泣く泣く硬貨を懐にしまい、逃げるように質屋を去った。他のところも行く気など失せてしまった。どうせ結果は同じだ。
「あぁ、最悪だ...。」
こりゃ、いつも通りとはいかないな。気分は低く、懐も寒かった。俺はとぼとぼと歩くしかなかった。
○
町の広場らしき場所で、俺は通りゆく人々を見ながらベンチに腰掛けていた。手には先程の硬貨を握って、絶望に打ちひしがれていた。
「まさかコイツが売れねぇとは...。」
硬貨を上に掲げて見る。くすんでおり、なんだか寂しそうにも見える。
「ははは、まるで翼の折られた俺みたいじゃないか。」
あまりのショックで、キザなセリフさえ吐いてしまう。どうかしている。俺は随分と心がやられているみたいだ。
「なあ、フラン。これからどうする?」
返事は無い。彼は俺の作った人形だ。でも、大切な友人の意見を俺は形だけでも聞いておきたかった。
「金ねぇし、野宿するしかないよなぁ。」
野宿は今まで何度もしてきた。嫌なものでは無い。俺は立ち上がると、町の端を目指して歩いた。とぼとぼとね。今日はとことんついてない。クソな日だ。
○
夜。暗闇の中で焚き火が燃えるのを眺める。暖かな、というかもはや熱風に、季節が夏のせいで眉を顰める。汗ばんだ身体を水で流したいが、生憎魔法は使えない。小さな小川で汲んできた水にタオルをつけ、俺は体を拭う。
「美味そ。」
焼いていた魚から、いい香りが漂ってくる。俺は急いで服を着て、魚を手に取った。香草の香りがツンと鼻をくすぐる。
俺はかぶりついた。外はカリッとした皮が美味しく、中の身はほろりとしている。
「うまー!」
うむ、あまりの美味さに手が止まらん。あっという間に一匹食べ終えて、2匹目に入る。
「あー!やっぱり美味いな。」
幸せだ。
隣に座らせたフレンを見て、俺は微笑む。うん、他人から見たら気持ち悪いだろう。でも許して欲しい。彼は俺の大事な友達なのだから。
魚を2匹平らげて、俺は眠りにつく準備をする。歯を磨く。布を引いて、横になる。焚き火は何かあると嫌なので、消さない。
この世界に来て、なんだかちっとも上手くいかない。でも、なんだかんだ楽しくもある。
「今回も魔法があるみたいだし、気長にやろう。2年あるんだから。」
魔法が使えるようになれば、水に困らなくなる。心の負担も少しは減るだろう。
「しかし、明日からそうやって金を稼ぐかなぁ。」
問題はまだある。俺はため息をつく。
そしてそのまま眠りについた。
もう、どうにでもなれ!!
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