第3話

 再び高校へ戻るころには、雲行きはすっかり怪しくなっていた。ただ雨は降っていないため、花火は予定通り打ち上げられることになったらしい。窓辺で他のクラスの学生たちが、安堵したようにそう話していた。


 後夜祭が始まるまでは、ほとんどの学生が教室で待機しているようだ。他に行く場所もないので、私もそれに倣うつもりでいた。


 教室に入るなり、巾着から端末を取り出して、景にメッセージを送る。怪我を心配するだけの簡潔な一文を打ち込んで、小さく息をついた。


 きっと、景のご両親が経営している病院へ運ばれたのだろう。確実に適切な治療を受けられる場所だから、何も案じることはないのだが、どこか落ち着かない。教室の中心で笑っていた彼の姿がないだけで、ここはひだまりを失ったように寒かった。


 ふと、相澤さんの友人らしき女子たちが、ちらちらとこちらを見ては怪訝そうな顔をしている。褒められているような雰囲気ではない。


 気まずさを覚えてなんとなく視線を逸らすと、向こうから私のほうへわざわざ歩み寄ってきた。皆、すでに華やかな浴衣姿だ。


「橘さん……雪森さんから聞いたんだけど、亡くなったお姉さんの恋人と付き合っているって本当?」


 雪森ひなが黙っているわけはないと思っていたが、話を聞いた本人たちから直接問われるとは予想していなかった。皆、陰口を叩くよりも正々堂々と問題を解決しようとしてくるから厄介だ。その妙な清廉さが、時折どうしようもなく居心地が悪くて仕方がない。


「亡くなったお姉さんの恋人を奪うなんて……。しかもそんな状態で星川くんと仲良くしてるのも、桜子に悪いと思わない?」


 誤魔化すように静かに微笑みを浮かべるも、言葉が出てこない。


 彼女たちに怯えているのでもなく、悔やんでいるでもなく、ただ億劫だった。少なくとも、相澤さんに悪いなんてすこしも思っていない。


 これは、私とゆらぎとツルギの、三人の問題だ。どんな正義感が理由でも、他の誰にも踏み込んでほしくなかった。そして私の世界に、心に住んでもいない相手に、それを伝える必要性は感じない。


 取り繕った笑みを消して、目の前に立ち並んだ女子たちを見上げる。


「心配しないで。私は誰も傷つけるつもりはないよ」


 傷つけたいと思うほどの執着なんて、この場所にもここにいる人々にもないのだ。空気のように溶け込んで、いないもの同然で日々を過ごすから、放っておいてほしかった。


「何、それ……私たちは」


 何か言いかけた女子たちの言葉を遮るように席を立って、教室を出た。


 このまま帰っても良かったが、せっかくツルギが支度を手伝ってくれた浴衣姿が勿体ないような気がして、人気のない場所を探して彷徨った。校庭は、花火を鑑賞する絶好のスポットだ。クラスメイトたちもほとんどがそこへ集まるだろうから、きっといづらいだろう。


 結局たどり着いたのは、校庭の隅にある倉庫の横に設置された古びたベンチだった。景とたまに過ごす人気のないベンチだ。ここからでも、じゅうぶんに花火は見られるだろう。


 ささくれたベンチに腰を下ろして、巾着を膝の上に乗せる。降り出してもおかしくないような厚い雲をひとりでぼんやりと見上げた。


 どのくらいそうしていたのかわからないが、校庭のほうから何かをアナウンスするような音声と音楽が流れてきた。学生たちの完成のような声が上がったのを機に、空に大輪の花火が打ち上がった。緑、桃色、黄色と曇り空にも華やかだ。


 あれは炎色反応だから、ゆらぎに聞かずとも正確な色の名前を当てることができるだろう。それともゆらぎの目から見れば、私の知らない他の素敵な色を連想して、聞いたこともない色名を教えてくれるのだろうか。


 ――ね、あさぎ、綺麗だね! あの花火は、青磁色って言ってもいいかも!


 目を瞑れば、ゆらぎが隣ではしゃいでいるような気になって、思わず頬が緩んだ。どんどん、と響く花火の音が心地よい。ゆらぎが隣にいる夢に浸れるのならば、花火も、どんなに綺麗な景色も捨てて、暗闇に囚われていてもいい気がした。


 次は、どんな言葉をくれるだろう。私が黙って微笑んでいても、彼女は新しい話題を見つけておしゃべりをやめないから、すぐに新しい言葉を口にするはずだ。


「花火が打ち上がっているっていうのに、目を瞑っているのはお前くらいなものだろうな、あさぎ」


 頭上から降ってきた澄んだ低い声に、ゆっくりとまつ毛をあげる。


 そこには、制服姿の景の姿があった。左腕を、三角巾で固定している。


「景……ここにきて大丈夫なの、怪我は?」


「やっぱりただの脱臼だった。整形で整復してもらって、鎮痛剤もらって終了だ。また来週見せに行かないといけないけどな」


 通院とは言っても、実家に近い場所なのだからそう苦労はしないだろう。ひとまず、骨折や腱の断裂がなかったようで一安心だ。


「すっかりクラスのヒーローになっちゃったね。……こんなところにいないで、みんなのところへ合流しなよ。きっと景を待っているよ」


「あさぎは? 行かないのか?」


「私はここがいいの」


 間を空けずにどんどん、と打ち上がる花火を見上げる。少し距離は離れているが、花火を鑑賞するにはじゅうぶんだ。案外、穴場かもしれない。


「確かに、周りが静かで悪くないな」


 景は校庭のほうへ向かうそぶりすら見せず、私の隣に腰を下ろした。


 小さなベンチだから、ふたりで並んで座れば肩が触れそうだ。幸い彼は私の左側に座ってくれたから、怪我をしたばかりの左肩に触れる心配はなさそうだ。


「浴衣、似合ってるな。その髪も、すごくきれいだ」


 景に指摘されて、そっと自分の姿を見下ろす。ツルギの着付けはやはり完璧で、どこも緩んだり乱れたりしていなかった。


「ありがとう。景は浴衣を着られなくて残念だったね」


「見たければ、今度は街の花火大会に行こう。夏休み中にあるだろう」


 ぼんやりと、想像してみる。浴衣姿の景とともに、屋台の並ぶ通りを巡って、焼きそばやりんご飴を買って、川辺に座り込んで花火を見上げるのだ。どこをどう切り取っても美しく、素晴らしい時間になるであろうことは簡単に予想がついた。


「……そうだね、楽しそうだね」


 空を見上げたまま、ぼんやりと答える。


 断る理由もないのに、気が進まないのはきっと、ゆらぎであれば絶対にしない行動だからだ。ゆらぎは、景とふたりで花火大会に行ったりしない。本当なら、ふたりで並んでこうして学祭の花火を見上げることもしない。


 景と過ごす時間を選ぶことは、ゆらぎが生きているふりをして生み出すあの優しい時間との決別を意味しているようでならなかった。正しい道がどちらかなんてわかりきっているのに、どうしても踏み出せない。あの愛しい現実逃避を捨てることができない。


「遠回しな拒絶と受け取るべきか?」


 勘のいい彼は、ここでそうだと言えば距離をとってくれるのだろう。すぐに認めてしまいたいのに、どうしてか言葉がうまくでてこない。景は、それだけ特別な存在だった。


 私の答えを待つ間もなく、景は畳みかけた。


「あの壊れたアンドロイドのせいで、ひとりになろうとしているのか?」


 どん、どん、と花火が遠くで響いている。景の肩越しに見える遠くの空で、ぱらぱらと火花が散っていた。息を呑むほど、美しい景色だ。


 いつまでも言い逃れなんてできないのだろう。明確な拒絶すらも言葉にできないのなら、せめて事情を話さなければきっと彼は私を放っておいてなどくれない。


「ツルギは……壊れてなんかないよ」


「でも、お前をゆらぎと呼んでいた」


「ほら、私とゆらぎは一卵性の双子だから。アンドロイドの持ち主は遺伝子情報で照合しているから、同じ遺伝子を持つ私をゆらぎと思い込んでいるだけなんだよ」


 いかにもそれらしく、淡々と説明する。もちろんこんな言葉で、景が納得してくれるはずもなかった。


「そんなの、数分で訂正できる。それこそゆらぎのお母さんに頼めばすぐだ。俺が聞きたいのは、なぜあさぎがそれを修正しようとしないのかだ」


 夜空に散った赤や黄色が、何重にも膜を張ったように色褪せて見えた。


 火薬の匂いがしなければ、まるで夢でも見ているような心地だ。


 だからだろうか。ずっと口にできなかった言葉が、不思議なくらいするすると紡ぎ出されていく。


「……ツルギが私をゆらぎと呼ぶ間はね、ゆらぎが生きているような気がするの。ゆらぎの好きな食事が出て、ゆらぎが好きな本や絵が並べてあって……ゆらぎのふりをしてツルギと会話をすれば、ゆらぎが目の前で会話をしてくれているような心地になるの」


「っ……」


 隣で、景が絶句しているのがわかる。本当は言いたくないことだったのに、いちど話始めると堰を切ったように止まらなくなった。


「ゆらぎのふりをして美術館に行って、ツルギとお出かけをして、アトリエにこもって……そうしている時間だけは、ゆらぎがいなくなったことを実感しないで済むの」


 目を瞑って、ツルギと巡った場所を思い浮かべてみる。思い出すだけでどれもが柔らかで、優しい光景だ。


 ゆらぎが生きている、ふりをしているだけなのだけれども、私にとってはかけがえのない時間だった。あれがなければ、とてもじゃないが心を保てなかった。


「だから……近ごろ高校ではどこか上の空なのか? ここが、ゆらぎの居場所じゃないから」


 さすが、景は理解が早い。本当に話しやすい相手だ。


「そこまでわかってくれたなら、私と思い出を重ねようとしないで。――私は、ゆらぎのいない思い出はいらない」


 拒絶よりも深く彼を突き放す言葉かもしれないと思いながらも、言わずにはいられなかった。こうでもしなければ、彼は絶対に私の手を離してくれない。彼が私の手を引いて進もうとする道は、今の私には眩しすぎる。


「それで、一生アンドロイドとゆらぎごっこを続けて生きていくつもりか? そんなことをしたら、あさぎの人生はどうなるんだ?」


「おかしなことを聞くね。ゆらぎに比べれば、私の人生なんて取るに足らないものだよ」


 思わずくすりと笑みがこぼれてしまう。空がちかちかと光っている。終盤に差し掛かっているのか大きな花火が連続で打ち出されているようだった。


「むしろ私がゆらぎのふりをすることで、ゆらぎの人生の模倣をできるのなら、そんなに素晴らしいことはない。あさぎとして生きていることよりも数倍の価値があるよ」


 今の私が欲しいのは、あの部屋の中の優しい時間だけだ。ツルギとともに嘘の関係を続けて、ゆらぎが生きているような気になって、食事をし、眠る。まやかしのような日々かもしれないが、続けていればいつか現実と区別がつかなくなる日が来てくれるような気がした。


 その瞬間、ふいに景に肩を掴まれ、無理やり体の向きを変えられた。片手なのに、大した力だ。


 珍しく強引な行動をとった景は、見たことのない激しい怒りを宿して私を睨みつけていた。


「冗談じゃない。そんな生活じゃ、あさぎが死んでいるようなものじゃないか」


 そのまま受け止めるには鋭すぎるまなざしだったが、目を逸らすわけにはいかなかった。こちらとしても、あの現実逃避を手放すつもりはないのだ。


「そうだよ、私は私を殺してでもゆらぎを生かしたい」


 生かしたかった、のだ。


 私の臓器でもなんでも使って、ゆらぎを生かしてほしかったのだ。拒絶反応が少ないであろう私という個体があるのに、ゆらぎを死なせてしまうなんて今の医療の限界を感じる。個の尊重だとか倫理だとかに囚われすぎている。大きな目で見ればゆらぎを生かしておくほうが必ず、世の中のためになるのに。


 私はせいぜい、真っ当に生きて大人になったところでただの医師だ。一世紀前であれば死んでいた人の寿命を伸ばして、給料をもらって、平凡に家庭を築いて、一生を終えるのだろう。決して悪くはない人生なのだろうけれど、きっと、ゆらぎには遠く及ばない。


 ゆらぎには、世界を変える可能性があった。ツルギがその何よりの証拠だ。


 そんな功績がなくたって、私よりもゆらぎが生きるべきだったのは明白だ。ゆらぎを好きな人はたくさんいて、ゆらぎの言葉を望んでいるひとが今もいる。私もそのひとりだ。


 以前にも思ったことだが、どう考えてもこの世には、私よりもゆらぎがいてくれたほうがよかった、と痛感する瞬間がありすぎる。それは悲観でも卑屈になっているわけでもなく、紛れもない事実なのだ。


 火薬の香りが遠のいて、どこからか雨の匂いが忍び寄ってくる。ぽつり、と冷たい雫がひと粒頬に当たった。


 景は、私の肩を掴んだまま、ふいに脈絡のない言葉を口にした。


「俺は、ほっとした」


「え?」


 陰鬱な雨の気配の中で、確かに景は私を見ていた。私の知らない、翳った熱を帯びた瞳で。


「すくなくとも俺はほっとしたよ。あの日、動転した様子の母さんから電話が来て、『橘さんの家の、あの子が事故に遭ったの』と聞いたあと、事故に遭ったのがゆらぎのほうだと知って……俺はお前じゃなくてよかったと思った。ゆらぎが大変な目に遭っているのに最低だとわかっていても、そう思わずにはいられなかった」


 清廉で公平な彼らしくない言葉だった。自分の身に代えてまで人を助けるお人好しな彼の発言とは、とても思えない。


「最低、だよ……そんなこと、思うなんて」


 なんとなく景の目を見ていられなくなって、視線を逸らす。こんな景は知らない。奥深くに眠っていた本当の彼を、知らない翳りを引き出してしまったような気がして怖かった。


「そうだ、最低だよ。誰が死んでも、きっとあさぎじゃなくてよかったと思うだろう。あさぎがもし病院に運ばれてきたら、きっと他の誰を差し置いてもあさぎの治療をしてしまう」


 そんなの、医師失格だ。大病院の後継になろうかという人が発していい言葉ではない。私の知っている清廉な彼の姿が、どんどん遠ざかって見えなくなっていく。


「だめだよ、そんなの。……肩、痛いから離してよ」


 さりげなく景と距離を取ろうとするも、彼の手はそれを許してはくれなかった。むしろいっそう距離を詰めるようにして、体を引き寄せられてしまう。


「お前にまつわることでは、平等も倫理も捻じ曲がる。そうさせたのはお前だろ、あさぎ。……逃げようとするな、こっちにいてくれ」


 ぽつぽつと雨が降り出したと同時に、景に思い切り引き寄せられ、そのまま唇が重なった。景の背後では、大輪の花火が打ち上がっている。雨は次第に勢いをまして、その花火を最後にあたりは薄闇に包まれた。


 雨の味がするくちづけだった。「あさぎ」として生きる私の生を望んでいたはずなのに、息を奪って殺そうとしているかのような激しさだ。くらりと目眩がして、思わず目を瞑る。その拍子に、雨水に混じって目尻から温かいものが溢れた。


 それが景の唇にも触れたのか、ようやく彼は顔を離した。どこか自嘲気味に口もとを歪めながら、震える指で私の濡れた頬を撫でる。


「ごめん……こんなことで、あさぎの心を繋ぎ止められるわけもないのにな」


 返す言葉など、見つかるはずもなかった。ただ呆然としたような心地のまま、勢いを増すばかりの雨の中で立ち上がる。


「……今日は帰るよ、じゃあね」


 それだけ言うのが精いっぱいで、逃げ出すように景の前から走り出した。


 慣れない下駄が、足の指に擦れて痛い。屋内に避難するようにかけていく学生たちとは正反対に、門を目指して走り続けた。


「っ……」


 正門の前で派手に転んでしまい、水たまりの中に倒れ込む。


 買ったばかりの浴衣は、すっかり肌に張り付いて、泥だらけになっていた。きっと、綺麗に編み込まれた髪も解けているのだろう。


 どうしてかわからないけれど、涙が止まらなかった。


 あんなの、景らしくない。私の知っている景じゃない。そう思えば思うほどに、胸が抉られるように痛む。


 あんな理不尽な行動をさせてしまうほどに、私の言葉は景を傷つけたのだろうか。


 素直に、あのくちづけを喜べる私でいたかった。どこか照れくさい気持ちで頬を染めて、視線を逸らしあって、でも手は重なっていて、腐れ縁が初恋に変わる瞬間を、心から味わえたらよかった。


 ゆらぎが生きていたらきっと、今ごろ動揺して震える手で彼女にメッセージを送っていたのだろう。初めてキスをしちゃった、と照れながらゆらぎに報告できただろう。でもその彼女はもういない。


 ゆらぎ、ゆらぎ、どうして死んじゃったの。


 すべては、彼女がいなくなった日からおかしくなり始めたのだ。ゆらぎがいないから、私の青春も初恋もぜんぶ色褪せてしまう。ゆらぎが私の世界の鮮やかな色彩もきらめきも一緒に抱き込んでいなくなってしまったから、毎日がこんなにも鬱屈としていて、無理やり息をさせられているような心地で生きているのだ。


「ああ、ああああ……!」


 ゆらぎがいなくなった事実に直面すると、泣き叫ばずにはいられなかった。この慟哭を胸の奥に沈めて、なんでもないふりをして今日まで生きてきたのだ。けれどそれは心の不安定な部分を突くように、ついに今日溢れ出してしまった。


 自分が涙していること自体、認めたくなかった。


 この涙は、ゆらぎの死の証だ。決して流してはいけないものだったのに。


 景のくちづけが、無理やり私の目を覚ましたのだ。彼の好意が、私を「ゆらぎ」でいられなくしたのだ。


 ふいに、体に打ち付けていた雨の感触が消える。ゆらりと黒い影が落ちてきて、導かれるように顔を上げた。


「ゆらぎ」


 目の前には、私に傘を差し出すツルギの姿があった。迎えはいらないと言ったが、雨が降ったから傘を届けに来てくれたのだろう。


「どうしてそんなところに座っているの、風邪をひいちゃうよ」


 いつも通りの、優しい声、機械とは思えないほど自然な微笑み、私ではない誰かに縋る切実なまなざし。


 わかっていた。彼だってもう、とっくに夢から覚めているのだと。


「……ツルギ、私、もう歩けなくなっちゃった」


 道標を、完全に見失ったような心地だった。雨に濡れる街を茫然と眺めることしかできない。


 ツルギは傘を地面に置くと、代わりに横抱きにするようにして私を抱き上げた。人の体温によく似た熱が、浴衣越しに伝わってくる。


「帰ろうか」


 ツルギは私を抱き上げたまま、雨の中を歩き出した。泣き疲れてぼんやりとした心地のまま、ツルギが前へ進む振動に身を委ねることしかできない。


 ツルギの肩に頭を預けて、目を瞑る。息が、うまくできない。再びあの優しい現実逃避に溺れることができるのなら、他の何を差し出しても構わないような気がした。



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