逆さまの夢
iK
不可能図形、ご存知ですか?
「ペンローズの階段」―
これは、不可能図形のひとつ。
私は、かつて夢の中で、その代名詞としても
有名な、マウリッツ・エッシャーの階段を
昇降しました。
ご存知ですか?
知らない方は、せっかくの機会ですし、ぜひ
今、その手を止めて調べてみてください。
いわゆる「だまし絵」や「トリックアート」
と呼ばれる世界です。
あの世界、びっくりする程出られないんです。
脱出ゲームなどのように、出口が与えられた
易しいものではありませんでした。
転生できない、ある種の異世界。
無論、私の場合はファンタジーというよりも
やはりただの明晰夢のお話ですが。
踊り場のひとつさえも無い螺旋階段を、
「降りながら上っていた」のですから、正気
の沙汰ではいられませんでした。
当時の私は、まだ小学5年生。走り出す足が
赴くまま、兎に角、息を切らして上ります。
でも、降りてしまうんです。
13階から上ったのに、13階へ向かってしまう
んです。
見知った建物の階段でありながら、その世界
は「セピア色」。鮮やかに褪せた褐色の世界
で、ただ形と呼吸を伴っているのは、自分の
身ひとつだけ。逃げる必要があるのかどうかも分からず、夢の世界にいる自覚だけがある。
幽霊や怪物が出てきたわけでもないのに、
「出られないという状況」は、恐怖の世界と
呼ぶに相応しい焦燥感に満ちていました。
では、どうやって目を覚まし、どうやって
その世界から帰って来られたのか?
(大前提として、今もその夢から目覚めてい
るのか、若干曖昧なところもあるんですが)
ただ、不思議なる時の一致というべきか、私
の場合、あるアクションをすれば、夢から出
られることを、その時に学べました。
無論、これはあくまでも私個人の方法なので
制約も責任も介在しない前提でお伝えします。
その方法とは、ずばり、「目を閉じて、息を
止め、踏み出す」。以上です。
おふざけでも、からかいでもなく、私の日常
であると言っても過言ではありません。
バンジージャンプやスカイダイビング、プールの飛び込み台などをイメージしましょう。
あの要領で、夢の中で、本当に踏み出したり
飛び出したりすると、大体目を覚まします。
(ここで目覚めない場合、おおよそ多重夢、
つまり夢の中で夢を見ているので、諦めて
いただくのが話は早いかと)
あの階段にいた当時の私は、半ば自暴自棄に
なって、スクエア状の螺旋階段の中央に空い
た吹き抜けを見下ろし、例の如く「目を閉じ
て、息を止め、飛び出し」ました。
現実世界で例えるなら、清水の舞台から云々
といった具合です。
無論、その瞬間でさえ、堕ちているのか、
舞い上がっているのかわかりませんでした
が、私は運良く、結局は布団の上で目を覚ましました。
ですが、今も尚、「この景色、何回目よ」と
思うことは多々ありますし、デジャヴなんて
何十回も経験しているので、「本当に目覚め
ているのかどうか」は、やはり、私自身も
よく分からないんですけどね。
でもまあ、いずれにしたって、時は令和。
エッシャーもびっくりの、天変地異に程近い
そんな世界になってきたのではないでしょうか?
終
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