吉北くん

「そういえばあんた」

 木下さんが思い出したように、吉北くんに向きなおった。

「下の名前は?」

「名前に上下はないらしいぜ」

「じゃあ右の名前」

「屁理屈じゃーん! ま、いいや。おれは吉北 八郷やざと、よろしく」

 吉北くんはバットを軽く振りながら笑う。

「そんなことより打たせろよう。ほら、ライトライト!」

「やぁよ、スカートで野球なんかできないもの」

「えぇー、野球の練習しにきてんだろ、なんでスカートなんだよ」

 だいたい、さっき柵を登っていたのに何を今更、とは思ったが、口に出さないくらいの良識はぼくにもある。

「ってか、監督とか、山本くん山城くん坂東くん西田くん笹部くん……あぁもう、みんなはまだ?」

「知ってるか、練習開始まであと一時間あるってよ」

「えっ。たった一時間? ほら、捕らせて捕らせて!」

「あと一時間しかないの? 打つ打つ」

 佐場くんと吉北くんの声がかぶる。

「じゃ、おれレフトー。木下おまえライトな」

 姫田くんが歩き始める。

 木下さんも、渋々と言った調子で、場所についた。

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