少女

 少女は、フェンスをよじのぼり、「あたし、審判する」なんてほざきはじめた。

「審判よりもセンターとかライトが欲しいけど」

「そうだそうだぁ、おれだってのこのこレフトに飛ばすほどばかじゃないぜ。まぁ、この状態だと飛ばすしかないんだけど。ライトだとできる時間短くなっちゃうし……」

 吉北くんがほおをふくらませながらぶつぶつ言う。

「アッ! 木下きのしたか!」

 目を細めたり、かっぴらいたりしながら駆け寄ってきていた姫田くんが、ようやくわかった、というように叫んだ。「こいつ、こいつだよ、芳野と佐場に言った新マネージャー!」

「この子が?」

「そうよ、あたしが新マネージャー美少女、木下 みやびよ!」

「美少女?」「そうかなあ……」「ただの女の子に見えるけど」

 吉北くん、姫田くん、佐場くんが顔を見合わせて首をかしげる。

「なによう!」

 木下さんが、みけんにしわを寄せて、大きなため息をついた。

「というか、あんたらの名前は?」

「ぼく、芳野 斗真とうま。先発ピッチャーだよ」

 ふぅん、と、木下さんは鼻を鳴らした。

「おれ佐場。佐場 良平りょうへい。キャッチャー」

「おれは吉北~。ファースト!」

「そっちのおかっぱは?」

「おれ? 昨日言ったろ」

 姫田くんが首をかしげ、まばたきをした。ひとより長いまつ毛がゆれた(ような気がした)。

「忘れたわよ」

 姫田くんが、大きなため息をついて、こめかみをおさえた。

「おれは姫田 多希たき。基本はセカンド。ま、やろうと思えばどこでもできるよ」

「なにそれ、ピッチャーも?」

「本職には負けるけど、一応」

 姫田くんが肩をすくめる。

 木下さんはまた、ふぅん、と鼻を鳴らす。

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