ひさしぶり

「吉北くん!」

 大きく手をふって、おおまたで歩く吉北くんの手足は、いつもよりさらに長く見えた。

「ひさしぶりー! 最近、来てなかったけどどうしたの?」

「実は実はよ、ニキビができちって」

「しょうもねぇ!」

 姫田くんが叫んだ。

「しょうもないとはなんだ、おまえら、できたことないからわかんないんだぜ。鼻にぷくっと……」

 佐場くんは、やっぱりおなかを抱えて笑ってる。

「佐場ならわかってくれるだろ?」

「いや、ニキビは何回かできたことあるけど、わかんねぇや」

 ヒィヒィ笑いながら、佐場くんは答えた。

「どうかしてるぜ!」

 吉北くんはそう叫んで天をあおいだ。元気そうでなによりである。

「ね、吉北くん、ちょっと打席立ってよ」

「お、いいぜ。かっ飛ばしたるーぅ」

 吉北くんはヘルメットを被り、バットを握って打席に立つ。バットで目の前を指して、「ふぅー……」と長く息をついた。

 佐場くんが、その後ろにしゃがむ。

 姫田くんが外野の位置に立つのが見えた。レフトの位置だ。つまりー

「レフトに飛ばせ、吉北ぁ!」

 そういうことだ。

 吉北くんの口角が上がる。

 ぼくは、細く、深く息を吐いた。

 想像する。

 あたりは一面草原で、周りには何も、誰もいなくて、唯一、佐場くんだけが18.44メートル先にいる。

 思い切り投げるところを想像する。

 揺れる草を、気持ちいい音を想像する。

 目を開ける。

 佐場くんのリードを見る。インコース、高め。

 ワンステップ、振りかぶる。ボールはぼくの手を離れていく。パァン、と良い音がなる。

 直後。

「スットライーク!」

 フェンスの外で練習をながめていた女の子が、叫んだ。

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