第7話 凍てつく方舟
「こちらです。」
シャロンを先頭に空洞を進んでいく。空洞の天井には、氷柱ができており、冷たい隙間風が空洞内を通っていた。シャロンが歩くと、道のわきに散らばっているクリスタルのような石が道標のように光りだした。シャロンの後ろの三人は再び足を止める。シャロンは三人の方に振り返った。
「大丈夫です。あれはマリーネア人である私を“方舟”が歓迎している証です。」
シャロンは穏やかな表情で答える。
「“方舟”?それは何ですか?」
木暮がシャロンに質問した。シャロンは再び歩き出し、空洞を進みながら答える。
「あなた方がマリーネアに来るために乗る船のことです。方舟といっても戦艦に近いですが。」
「戦艦ですって!」
高倉は驚いた。南極の冷たい風が空洞を通り抜ける。
「呼んでいるといいましたが、方舟が呼ぶというのはどういうことでしょうか?」
風見がシャロンに聞く。
「正確には、方舟の動力となるコスモオーシャンが呼んでいるという意味です。私たちマリーネア人とコスモオーシャンとは、互いに共鳴し合って生きてきましたから。」
シャロンの回答に、風見は科学者としてさらに頭を抱えた。進んでいくと前の方から、青白い光がうっすらと差し込んできた。その光は進んでいくにつれて強くなり、ついに空洞を抜け青白い光が包む空間に出た。
「これが“方舟”です。」
シャロンが足を止める。三人は顔を上げると、愕然とした。目の前にあったのは、氷に包まれた形式の古い巨大な船であった。甲板の上に大砲が三本横並びになって取り付けられ、その上部にも同じものが二つひな壇のように並んでいる。その後ろには、艦橋と思わしき縦長の建物があり、その先端にはレーダーと思わしき網状の板が二つ並んでいた。艦尾の方にも大砲が据え付けられ、小さい砲台が船の舷側に並んでいた。さらに船の先端の艦首は開かれており、砲台のようになっていた。砲台の発射口は氷柱がかぶさり、穴をふさいでいる。艦橋部の窓を水滴が凍り、曇っている。船体には、錨のようなマークが付いていた。
「こ、これが・・・」
木暮は驚きのあまり、体が凍り付いていた。
「そうです。これがあなたたちの希望となる方舟。万能戦艦ブルーマイティ号です。」
3人は凍りついたブルーマイティをまじまじと見る。シャロンの体が突然青白く光り始める。すると、シャロンの体が浮き上がる。3人は驚いて、シャロンから一歩離れる。
「ど、どうなさいました!?」
シャロンは浮き上がりながら、3人の方に振り返る。
「私の役目は、この船と共にあなた方をマリーネアをご案内することです。私はこの船の羅針盤と融合し、あなた方をマリーネアまでご案内します。ですからあなた方には、凍てついたこの船を蘇らせてもらいたいのです。この船の設計図と動力となるコスモオーシャン、そしてマリーネアまでの航路図が、私の送った通信カプセルに同封されています。では、私は船で待っています。」
シャロンはそう言い残すと、体が変形し水色の水晶のような塊に変化した。その塊は流星のように宙を飛んで、ブルーマイティの艦内へ入って行った。シャロンが消えた瞬間、3人はきつねにつままれたようなに、しばらく沈黙に包まれる。
「我々は夢を見ているわけではないのか?」
沈黙を破って、木暮が口を開く。木暮は目の前で起きた出来事に対して、収拾がついていなかった。風見は頭を抱えている。高倉は、凍てつくブルーマイティに一歩近づいた。
「長官、我々はこの奇跡を無駄にはできません。彼女の言葉を信じましょう。」
高倉の言葉に、木暮は頷いた。この後、南極に「ブルーマイティ計画本部」が設けられ、巨大戦艦ブルーマイティの修復作業が始まった。
高倉が目を開くと、指令室の大パネルが目に飛び込んでくる。高倉の耳に機械音が徐々に聴こえてくる。
「長官、乗組員については私の方で組んでよろしいですね?」
高倉は木暮に聞く。木暮は何も言わずに頷く。高倉は指令室を出る。指令室の扉の横の壁に、艦長服に身を包み海軍士官制帽を被った白髪混じりの男性が寄っかかっていた。
「渡、お前か。」
高倉は足を止めて、男性の方を見る。渡竜介は国連防衛海軍日本総司令部の第七艦隊司令官を務め、「鬼の渡」の異名を持つ。また渡は、幼い頃に両親をアトランダムの攻撃で失った葵を引き取り、育ての親となった。
渡は壁に寄っかからながら腕を組んで、高倉の方を見つめた。
「今回の作戦、俺に変わらなくていいのか?お前の体に限界がきているのはわかっている。その体で、この無謀な作戦に挑む気か?生きては帰れんぞ。」
高倉は渡の言葉を、渡に背中を向けて聞いている。高倉を見つめる渡の目は険しかった。
「わしはこの作戦に命を賭ける。たとえ体が蝕まれようとも、必ず“希望”を持ち帰ってみせる。」
高倉は歩き出す。渡は高倉の背中を、ただ険しく見つめていた。
青い方舟 ブルーマイティ 平井宇宙 @hiraisora
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