第6話 希望のメッセージ

 9月23日、高倉は国連防衛海軍日本総司令部の指令室を訪れた。まだ腕には包帯を巻いた状態であった。指令室内は、節電のため薄暗かった。指令室の大パネルには、世界地図と一緒に各国の国連防衛海軍総司令部のエネルギー状況が表示されていた。ほとんどの国でエネルギー不足を表す丸い紫の信号がついていた。通信機のマイクからは各支部からの定時報告が聞こえてきていた。

「こちら、ニューヨーク。間もなく司令部の全エネルギーが停止。これが最後の通信となる。」

「こちら、パリ支部。基地の89%が汚染されたため、これより基地からの脱出に踏み切ります。」

「こちら、モスクワ。地下都市各地で暴動が発生、都市機能完全に麻痺。」

「リオデジャネイロ、出力低下。汚染区域拡大。」

ノイズの多い声で報じられる報告はどれも悲報ばかりであった。中には数週間前から一切連絡を送らない支部もある。指令室の中央の席には、日本支部総司令官の木暮平七郎が座っていた。木暮の手元のパネルには、地下都市の汚染状況を示す折れ線グラフが表示されていた。数ヶ月前から折れ線は、左斜め上に伸び続けている。木暮は振り返ると、高倉に気がついた。高倉は木暮に敬礼する。

「高倉くん、無事だったか?」

「いつまでもベッドで横にはなっていられません。時間が残されていないですから。」

「南極の状況はどうなっている?」

木暮は高倉に聞いた。

「遅れが発生しているようですが、発進には差し支えないでしょう。残りの作業は航行しながらでもできます。予定通り、10月6日に発進させます。」

高倉の報告に木暮は驚いた。

「しかし高倉くん!君の体はもう…」

木暮は言いかけると、高倉の顔を見て言葉を止める。

「“マリーネア”までの旅はわしの寿命を大きく縮める結果になるでしょう。そうでなくともわしの体は日に日に病気に侵されています。あの人が私たちに託してくれた希望を無駄にはできません。」

一点の迷いもない高倉の目を見て、木暮は引き止めるのは不可能だと悟った。高倉は目を閉じて、半年前の出来事を思い出していた。


 今から半年前、国連防衛海軍日本総司令部に一つの通信カプセルが送られてきた。通信カプセル内には音声メッセージが入っていた。高倉は指令室へ向かい、音声メッセージを聴いた。音声メッセージからは、女性の声でメッセージが入っていた。

『私はシャロン。私は数千年前に海底に沈んだ水の国マリーネアの数少ない生き残りです。地上のみなさん、今みなさんを襲っている脅威、それは私たちと同じ時に海底に沈んだアトランダムという帝国です。そして今みなさんの地上環境を汚染しているアトランダムの放射線を除去することができるのは、マリーネアにあるコスモオーシャンだけです。しかし私たちの国は、アトランダムの監視下にあるため、地上環境を再生させるだけのコスモオーシャンを地上に送り届けることはできません。そこで、みなさんにマリーネアへ来る方法をお教えします。私はアトランダムの目を掻い潜って、南極へ向かいます。そこでみなさんにその方法をお教えします。もし、このメッセージを信じていただけるなら、南極へ来てください。』

メッセージを聴いた誰もが驚いた。それまで正体不明とされていた脅威の正体が、アトランダムという帝国であることを初めて知り、さらに地上環境を再生することのできるコスモオーシャンという物質があることも。このメッセージはすぐに全支部に共有され、各支部の司令官が緊急の会議を行なった。一部には、このメッセージの内容を鵜呑みにして良いものかという意見もあったが、地上環境の時間的猶予の短さから、代表者が南極へ派遣された。

 3日後、メッセージを送ったシャロンなる人物が南極へ向けて出発した。アトランダムの妨害に備えて、国連防衛海軍日本総司令部から迎えの護衛潜水艦が送られた。南極に派遣された代表団は、旧昭和基地のあった国連防衛海軍南極支部でシャロンの到着を待った。木暮をはじめ、高倉や風見もその代表団に含まれていた。しかし、予測していたアトランダムの妨害工作が行われた。シャロンを乗せた護衛潜水艦はアトランダムの爆撃隊の攻撃を受けた。だが護衛潜水艦は奇跡的に助かり、無事南極にシャロンが到着した。

 極寒の南極の海岸で代表団が待ち受けていると、護衛潜水艦が浮上してきた。アトランダムの攻撃を受けたため、艦尾から黒煙が上がっていた。代表団はそれを見て、驚く。

「シャロンさんは大丈夫なのか?」

木暮が心配していると、護衛潜水艦から、長い金髪で青い瞳の水色のドレスのような服を着た女性が1人で降りてきた。体の周りには薄らと、水色の粒子が光っているように見えた。代表団は女性に近づく。女性は足を止めると、代表団にお辞儀をした。

「はじめまして。マリーネアから参りました、シャロンです。」

シャロンはゆっくりと頭を上げた。

「シャロンさん、ご無事でしたか。」

木暮は身を乗り出して、シャロンの無事を確認した。

「私はなんともありません。ですが、迎えの護衛潜水艦に搭乗していた渚葵という女性が私を庇って大怪我をしてしまいました。すぐに治療してください。」

木暮は右隣にいた参謀長に護衛潜水艦の収容を命令する。護衛潜水艦は潜水し、南極支部の地下ドックへ向かった。木暮はシャロンに手を差し出した。

「申し遅れました。国連防衛海軍日本総司令部総司令官の木暮です。こちらは、第一艦隊司令の高倉五郎提督。その隣が国連防衛海軍技術局開発部主任の風見晋作主任です。」

シャロンは木暮と握手する。木暮の左隣の高倉と風見とも握手した。

「わざわざ南極までお越しいただきありがとうございます。では、早速ご案内します。」

シャロンは氷山へ向かって歩き出した。代表団の3人はシャロンについて行く。

「シャロンさん。失礼ですが、その格好で大丈夫なんですか?ここの気温はマイナス10℃です。」

風見はシャロンに質問した。

「大丈夫です。私の着ている服はその気候に応じて気密度が変化するので。」

予想していなかった回答に風見は驚いた。シャロンが氷山の前に立つと、薬指にはめた指輪を氷山にかざした。すると、氷山が開き穴が空いた。

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