第5話 明と葵・運命の出会い

 明は防衛軍病院を訪れた。高倉に会うためであった。受付の看護婦から聞いた部屋番号の場所へ向かうと、扉の文字盤には『面会謝絶』と表示されていた。明はその文字盤を見ると、ため息をついた。受付に戻ろうと振り返った瞬間、明は何かとぶつかった。

「キャ!」

明は後ろに倒れ、明とぶつかった人物は少しの悲鳴をあげて倒れた。バサバサと紙の落ちる音が聴こえ、明は目を開けた。目の前には、訓練学校の生活科の生徒が着るピンク色のラインの入った制服のきた女性から倒れていた。ぶつかったときにぶつけた、腰を摩っている。

「いたた。ごめんなさい。前見えてなくね。」

明は思わず、相手の女性を見つめた。よく見ると長い黒髪と綺麗な瞳、シミの無い白い肌をしていた。明は女性と目が合った。

「あ、あの。私の顔、何かついてる?」

「え?い、いや、別に。こっちこそごめん。」

明は落ちている紙を拾い、綺麗にまとめて女性に手渡す。

「もしかして生活科の人?」

明は女性に聞いた。

「うん。ここでは看護婦の実践研修中。あなたは戦術科の人に見えるけど、どうしてここに?」

明はポケットを探って、地下ドックで拾った写真を女性に見せた。

「これを412号室にいる高倉提督に渡して欲しいんだ。じゃあ。」

「あ!ちょっと待って。」

走り去ろうとする明を女性が引き止めた。

「これあげる。」

女性は明に透明な包み紙に包まれた黄色い飴を渡した。

「ビタミン剤。なんだが顔が暗かったから。これ舐めてると元気出るよ。別に怪しい薬じゃ無いからね。」

「あ、ああ。ありがとう。」

明が歩き出そうとすると、再び女性の声が聞こえた。

「私、渚葵。あなたは?」

「俺?大和明。」

「そう。よろしく、大和くん。」

葵は綺麗な笑顔で手を振った。整った白い歯がよく見える。明はぎごちなく手を振り返した。葵は振り返ると、高倉が入院している412号室へと入っていった。

「失礼します。新田先生、頼まれていたカルテです。」

葵は、高倉の横たわるベッドの横にある机に座っている看護婦の新田美雨にカルテを手渡す。

「ありがとう、葵ちゃん。」

「あ、それから。これを高倉提督に渡して欲しいって、戦術科の大和明って人が。」

美雨は葵の持っていた写真を受け取る。すると話し声を聞いていた高倉が体を起こした。

「大和くんが拾ってくれたのか?」

美雨から写真を受け取ると、高倉は肩に羽織っている艦長服の胸ポケットにしまった。

「渚くん。」

高倉は葵の方を見る。

「はい。」

「あれから体の具合はどうかな?」

「おかげさまですっかり良くなりました。」

葵は笑顔で答える。それを聞いた高倉も笑顔になり、頷いた。葵は「失礼します。」というと、部屋を後にした。立ち去る葵を美雨は見ていた。

「信じられませんね。あの子がついこの間生死の境を彷徨ったなんて。」

高倉は、ベッドの横の壁に取り付けてあるビデオ電話の通話ボタンを押した。美雨は気を利かせて、ベッドの周りのカーテンを閉めて机に戻った。ビデオパネルが切り替わり、総司令部の通信隊員が映し出される。

「わしだ。ブルーマイティ計画本部に繋いでくれ。」

「はい。」と通信隊員が頷くと、ビデオパネルが別画面に切り替わった。

 南極大陸。その氷山の地下深くには、直径300メートルに及ぶ巨大空洞が存在する。空洞を中心として、国連防衛海軍の秘密基地『ブルーマイティ計画本部』がある。基地内は全館空調で、暖房がついている。 900平方メートルに及ぶ地下開発室では、国連防衛海軍技術局の技術員たちがある計画振興のために働いていた。技術局開発部主任の風見晋作は、技術員たちの中心となり動いていた。

「風見主任、高倉提督からお電話です。」

風見は地下通信室へ向かい、高倉からのビデオ電話に応じた。

「風見です。」

「ブルーマイティの始動準備はどうなっている?」

「はい、防御システムおよび艦内環境設備に関しては全てクリアしましたが、肝心のエンジン部に関してはかなり遅れが発生しています。すぐに山本機関長にこちらへお越しいただきたいのですが。」

風見の要望に高倉は少し言葉を溜めた。

「実は山本くんは、先の第五次バミューダ海戦で、かなりの負傷している。今すぐに南極へ向かうのは難しいかもしれん。」

「そうですか。では私の方で最終調整に入ります。機関長にもそうお伝えします。」

風見がビデオ電話を切ろうとする寸前、高倉の低い声が聞こえてきた。

「風見くん。実はわだつみが…大和海尉と共に撃沈した…。本当にすまない…。」

「…失礼します。」

しばらくの沈黙の後、風見はビデオ電話を切った。風見はしばらくその場に立ち尽くした。風見は胸ポケットにしまった写真を取り出した。写真には笑顔を見せる昇と千鶴、そして風見が写っていた。

『昇、許してくれ。必ず“方舟”を完成させて、人類を救うぞ。』

風見は写真を握り、心の中でつぶやいた。大きく息を吸い写真を胸ポケットにしまうと、地下開発室へ戻った。

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