第2話 青い矢を放て

 戦いも見つめる敷島の乗組員たちの顔は、一気に疲弊しきった表情へ変わっていた。中には手の震えを必死に止めようとする者もいる。

『だめだ。このままでは、犠牲を増やすだけだ。』

高倉は沈んでいく味方の艦をを眺めながら、心の中でつぶやく。

「艦長、どうします?このままでは…」

千鶴が高倉の方を振り返る。その表情は必死だった。高倉は少し間を置き、強い剣幕で顔を上げた。

「全艦に達す。これより第二戦闘隊形へ移行!」

高倉は、無線機を強く握り、勇ましい声で命令を出す。千鶴を含め、その命令を聞いた全員の動きが一瞬止まった。”第二戦闘隊形”というのを耳にしたからだ。

 駆逐艦わだつみの昇も第二戦闘隊形へと移行する。戦闘中の海域を離れ、敷島の前方へ向かう。高倉の艦隊の全戦艦が敷島の前に一列に連なった。敵艦隊はその間も攻撃の手を緩めない。一列に並んだ艦隊が戦闘から順番に撃沈されていく。

「青電子砲、発射用意!」

 一方、敷島の艦内では、国連防衛海軍の秘密兵器”青電子砲”の発射準備が進められていた。艦内の電気は非常電源に切り替えられ、薄暗かった。補充されたエネルギーは敷島の機関室へと送られていた。敷島の機関室では、ベテラン機関長の山本十兵衛が無線機片手にエネルギー伝導管を操作していた。

「全エネルギー青電子砲へ。強制注入器、作動。」

山本の指示通りに機関士たちが動く。機関部のエネルギー伝導管のメーターが上昇していく。

「こちら機関室、現在エネルギー充填45%。」

高倉は黙って山本の報告を聞く。目の前では敷島を守るように連なった戦艦たちが次々と沈んで行っていた。彼らは青電子砲の発射までの時間稼ぎを担っていた。ゆっくりと敵艦隊が敷島に近づいてくる。

「エネルギー充填、80%。」

少しづつたまっていくエネルギーの報告を聞きながら、敷島の乗組員たちは冷静さを保っていた。

「青電子砲、安全装置解除。」

千鶴が戦闘班長に命令する。戦闘班長が手元で発射ボタンの操作をしている。

「安全装置解除。セーフティーロックゼロ。圧力、発射点へ上昇中。」

機関室のエネルギー伝導管は、安全装置が解除されたことで艦首の砲台へとつながった。

 昇はミサイルの発射を命じながら、消えていく味方の艦をただ見つめていた。

「艦長!まだ動けないんですか!」

わだつみの副長が立ち上がって昇に必死に訴える。だが昇は表情を変えずに落ち着いた口調で副長を宥める。

「落ち着け。今俺たちがやらなきゃならないのは、提督の敷島を守ることだ。青電子砲発射までの間な。」

「ですが、このままでは…」

ドンと昇は艦長席の肘置きを強く叩いた。副長が黙り込む。

「俺だってつらいんだ!それに提督だって…」

副長はそれ以上騒ぐことなく、副長席へ戻った。

「ミサイル攻撃を緩めるな!1分でも1秒でも時間を稼ぐんだ!」

わだつみはミサイルを連射する。敵の艦体に傷はつけられないものの、敵の進行を数センチ程度抑えてはいた。

 その様子を高倉も見つめていた。千鶴は左手を右手のこぶしの中に包み込んでいた。千鶴の左手の薬指には昇との婚約指輪がはまっていた。わだつみを見つめる千鶴の眼は若干うるんでいた。

「エネルギー充填100%、最終セーフティー解除。」

戦闘班長の声を聴いた山本がエネルギー伝導管を操作する。エネルギー伝導管と艦首の砲台を隔てる隔壁が開かれる。すると、砲台の中に青色の粒子が溜まっていき、一つの大きいな青い球となる。

「エネルギー充填120%、圧力限界です!」

山本の声を聴いた高倉が眉間にしわを一気の寄せる。

「総員対ショック体勢!」

乗組員たちは座席の肘置きをしっかりとつかむ。腰に力を入れ、発射の衝撃で椅子から飛び出さない様にする。高倉は手元から飛び出た発射スイッチを力強く押した。

「発射!」

発射スイッチが押される。敷島を囲んでいた艦隊が体形を変え、青電子砲の通り道を開ける。艦首の砲台で大きく広がった青色の球体が、太く長い光の矢へと変わっていく。矢はまっすぐ伸びていき、敵艦隊の先頭の突撃艦に命中する。光の矢は敵の艦体を貫く。光の矢の延長は止まることなく、まっすぐ敵艦隊の列を突き抜けた。光の矢に貫かれた戦艦は内側から爆発し、海の底へと沈んでいく。敵艦隊は、近くの艦が爆発したことで周りの爆発する連鎖爆発状態となっていた。その様子を見ていた高倉の艦体の全員が、一瞬顔を明るくした。戦闘が始まっていから敷島の艦橋を締め付けていた冷たい空気が、若干緩和された。

 敵艦隊は激しい閃光と爆音に包まれ、混乱状態となっていた。中には、近くの艦の爆発から逃れようと後退した瞬間に後方の艦と衝突し、結局爆発してしまったものもある。本の数時間前に比べると、まさに形勢逆転状態であった。

 「全艦、密集体系のまま直進せよ。両舷増速。」

 高倉は、このチャンスを逃すまいと全艦に直進を指令した。敷島を囲んでいた艦は一斉に艦首を敵艦隊へ向け、全速力で進んでいった。しかし、戦闘開始時に比べて、戦艦の数は明らかに減っていた。さらに、航行できているとしても艦体などににかなりの損害を負い、満身創痍の状態の艦も少なくはなった。それでも、高倉の艦隊は混乱状態の敵艦隊の中心部へ向けて、魚雷やミサイルを発射し続けた。

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