第1話 バミューダ激戦

 9月21日、バミューダ諸島近海。深海ではいくつもの国連防衛海軍所属の大型潜水艦が連なって移動していた。海面から差し込む光は届かず、暗く静寂が広がっていた。旗艦の「敷島」は、駆逐艦や巡洋艦、多数の護衛艦に囲まれながら、列を崩さずにゆっくりと進んでいた。敷島の艦長・高倉五郎一等海将は、バミューダ海域の深海を訪れるのは5度目となっていた。艦長席に座り、表情一つ変えずに窓から見える暗い深海を見つめていた。

「艦長、間もなく作戦海域です。」

艦長席の右斜め前に座っていた副長の服部千鶴一等海佐が、高倉のほうに振り返った。それを聞いた高倉は、手元の無線機を取り、全艦に命令を送る。

「こちら敷島、艦長の高倉だ。間もなく作戦海域に到着する。第一戦闘隊形にいつでも移行できるよう、準備をしておくように。それから…」

高倉は無線機を握り、少し言葉をためた。

「…総員の健闘と無事の帰還を祈る。以上だ。」

高倉はゆっくりと無線機を戻した。副長の千鶴をはじめ、敷島艦内の全乗組員が高倉に敬礼をした。艦隊の先頭を進む駆逐艦「わだつみ」の艦長・大和昇一等海佐もマイク越しに聞こえてきた高倉の声に対して、艦長席を立ちあがり敬礼をしていた。敬礼を終えた乗組員たちが持ち場の座席に戻り、再び艦隊は静寂に包まれた。一糸乱れずに進む艦隊の前方から、黒い鉄の”塊”が接近していた。その”塊”は艦隊の列の倍の大きさをしていた。敷島のソナーが“塊”をとらえた。

「ソナーに反応。敵艦隊確認。」

「位置は?」と千鶴が聞く。

 「右舷32度、左舷25度。」

航海科のレーダー担当が手元のレーダーパネルに目を配る。全艦の艦橋に緊張が走る。

「速度27ノット。距離50マイル。」

「艦隊の数は?」

高倉はレーダー担当に聞く。

「超ド級海底戦艦6、プロメデス級駆逐艦7、ケルベロス級突撃艦多数で急速接近中。」

レーダパネルに映るアトランダム艦隊を示す多数の点が中心に近づいていた。アトランダム艦隊と敷島との距離が近づいていることを表している。高倉は窓から外を見る。アトランダム艦隊は目視で確認できる距離であった。先端はカラスのくちばしのように鋭く伸び、海中を照らすライトは獲物を狩るオオカミのような目つきに見えた。そんな姿をした戦艦が、高倉たちの艦隊をにらみつけていた。敷島の艦橋のビデオパネルが光った。映し出されたのはわだつみの昇だった。

「こちら駆逐艦わだつみ。敵艦を確認。距離20マイルの地点です。」

高倉は昇の報告に頷く。高倉は手元のマイクを手に取り、全艦へ指令を送る。

「平行戦に持ち込む。総員戦闘配備。右30度変針、主砲雷撃戦用意。」

昇の写っていたビデオパネルが消える。千鶴はその様子をどことなく悲しげに見つめていた。高倉の命令通り、全艦が戦闘隊形へと移行する。敷島の通信班長が高倉の方も振り向いた。

「艦長、敵艦より入電。『無駄な抵抗はやめ、だたちに降伏せよ。』。返信はどうしますか?」

敵艦隊からの横暴な要求に、乗組員は憤りを感じた。怒りの気持ちを押し殺して、戦闘準備を整える。高倉はしばらくの沈黙の後、通信班長のほうを見ていった。

「和平なら聞き入れよう。だが、降伏は認めん!」

高倉の強い口調に、通信班長は驚いた。千鶴も振り返って、高倉のほうを見ていた。

「そう返信しろ。」

高倉は口調をいつも通りに戻して、通信班長に伝えた。通信班長は戸惑いながらも、高倉の言葉を敵艦へ受信した。高倉の言葉を受け取ったのか、敵艦は戦闘隊形へと移行し、不気味な姿の砲門を高倉たちに向けた。高倉たちの艦隊も砲門を敵艦隊へ向ける。敷島の艦橋では砲雷長が砲塔を調節していた。すると、敵艦が先制攻撃を仕掛けてきた。敷島が一瞬大きく揺れる。

「うろたえるな!」

高倉は環境の全員に向かって叫んだ。

「砲雷長!誤差修正を急いで!」

千鶴が砲雷長に強い口調で命令する。砲雷長は額の汗を拭きながら、手元のパネルに目を配り、各砲塔の操作班に誤差修正を命じる。

「目標右プラス3。3番砲塔、誤差修正17。」

ギィと砲塔が動く音と砲塔を操作する計器の機械音が艦橋に響いていた。砲雷長の手元にある砲塔の誤差を示す計器パネルが赤色から誤差ゼロを示す緑色の変わった。

「誤差修正完了しました。」

砲雷長の報告を聞いた高倉は艦長席から立ち上がり、「ってー!」と叫んだ。その叫びと同時に、全艦が敵艦に向けて一斉に砲撃を開始した。まっすぐ進んだ火の矢は敵艦の側面に命中する。しかし、命中した火の矢は跳ね返され、海中に消えていく。

「命中、なおも敵艦は健在。」

戦闘班長からの報告に、敷島の艦橋の乗組員たちは静かに絶望していた。すると、敷島の艦橋に一瞬窓に強い光が差し込む。

「味方巡洋艦、爆発!」

敷島のレーダー担当が状況を報告する。光が差し込んできた方角を見ると、敵艦隊の魚雷が命中した高倉たちの巡洋艦が炎上していた。巡洋艦は体制を戻せず、そのまま深い海の底へ沈んでいった。別の方角では、護衛艦が敵の突撃艦に向かって進んでいた。しかし、突撃艦の放ったレーザーが被弾し、艦尾から煙を上げていた。護衛艦は方向を変え、後退を図る。その瞬間、敵の駆逐艦のミサイルをよけた味方の巡洋艦と衝突し、飲み込まれていった。

 

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