第7話 温泉の神、犬を迎える
そこは、どこか懐かしい風景が広がる異界——人と神が交錯する不思議な場所。
私は、ご主人様を亡くしてしまった老犬を見つめながら思った。寂しそうだ。新しい飼い主を決めるため、神様にお願いしよう。そんな気軽な気持ちで、神の社へ向かおうとした。
しかし、その途中で——何かが飛び出してきた。
「おーい!神様に会いに行くの?じゃあオレが先に出てやるよ!」
宙をくるくる回りながら現れたのは、小柄なイタズラ妖精だった。小さな翼をひらめかせながら、私の夢の空間をぐるぐるとかき回し始める。
「見てて!夢の世界をもっと楽しくしてやる!」
そう言うなり、妖精は空を指先でなぞるように動かす。その軌跡が風を乱し、地面が波打ち——突然、温泉が噴き出した。
「ほら、神様を呼ぶなら、こういう派手な演出が必要だろ?」妖精は満足げに笑う。
すると、その湯煙の中から、厳かな気配が漂う。姿を現したのは、白髪の長い髭をたなびかせた老人の神。彼は湯に足をつけながら、ふと目を細めた。
「老犬のことは知っておるよ」
低く響く声に、私は息を呑む。
「この子のご主人は亡くなった。寂しさを埋める者が必要だな」
そう言うと、神は老犬の頭を優しく撫でる。その瞬間、犬の目が潤んだように見えた。
「この子は、わしが引き取ろう」
温泉の湯気に包まれながら、神と犬は静かに向き合う。まるで長年の絆があったかのように、老犬は穏やかに神のもとへ歩み寄った。
一方、妖精は満足げに腕を組んでいた。
「いいじゃん!オレの演出で話がスムーズになったね!」
その言葉に苦笑しながら、私はただ、じんわりと胸の奥が温まるのを感じていた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます