第5話 潮満ちる時




 干潟に立つ私の前に、巨大なクラゲが浮かんでいた。


 そのクラゲは、幽霊のように透き通り、どこか神秘的な雰囲気を纏っている。私はただ見つめることしかできなかった。


「一緒に行く?」


 声がした。振り返ると、生意気そうな少女が立っていた。彼女はどこか挑戦的な目をしていたが、ふとデレたような表情を見せた。


「潮が満ちるまでに、返事をしてね。」


 その言葉が耳に残る。だが、ノイズが混じり、彼女の声が途切れ途切れにしか聞こえない。


 場面が変わる。


 実家の部屋で、私はウェディングドレスを着ていた。透けるような生地が肌に馴染み、鏡に映る自分はどこか美しく仕上がっているように見えた。


 だが——ふと気づく。


 体中にいぼができている。


「悪い魔法のせいだ。」


 その言葉が頭に浮かび、鏡の中の自分を見つめる。美しさと醜さが交錯するその姿に、私はただ立ち尽くしていた。

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