9〜15日目
私がそちら側なんて、全く心が躍りませんよ。
仕方ありません…少しだけ、付き合ってあげましょう。
…
……2時間後。私はワイヤーで木の上に吊るされていた。
「私が捕まえました!どうです…この貢献度合い♪」
「ここまで、追い詰めたのは私。『濁竜』はただ…いいとこ取りをしただけ。全く、貢献してない…人間に冷凍されてたし。」
「……やります?」
「…格の違いを見せてあげる。」
2人が喧嘩しようとするのを、『性竜』コーラルが宥める。
「ん//まあまあ…ここは穏便に行きましょう?私はもう数日ほど…あうっ///愛をぶつけさえすれば、ぁ……ん…大人しく、退きますから♪」
「絶対…だめ。」
「廃人になるでしょ、そんなコトしたら!?吸血鬼は人間なのかの定義にもよるけど…」
喧嘩するのも何とやら…ですか。息がぴったりで…案外、仲が良さそうですね。
しかし…この状態で会話が朝まで続いて、私が焼かれてしまう…そんなノエルみたいなお馬鹿な結末を迎えるのは嫌なので、ここは1つ…提案してみますか。
「お、おほん…捕まっている私が言うのはおかしいと思いますが…このまま、言い争いを続けるのは無意味です。そうは思いませんか?」
「んっ…//ええ。まあ…その通りですね。」
「うん。」
「…愛すべき下等な人間以上、私以下の戯言にしては悪くないですね。試しに言ってみて下さいよ。吟味した上で、笑い飛ばしてあげますから。」
こんなのでも流石は竜。話が通じて助かります。
「えー、なので、皆さんが幸せになる方法でいきませんか?」
私がそう言うと、3人が顔を見合わせた。
……
3人の要求をまとめるとこうなります。
『怒竜』ルビー…奴隷として永久奉仕
『濁竜』サファイア…借金返済
『性竜』コーラル…情報提供 (後、セッ…)
この3つを同時に達成する為には……こうするしかなかったのです。
……
…
早朝…太陽が昇っていない時間帯に、『怒竜』ルビーが仕えているらしい、和風な武家屋敷っぽい場所の廊下で、紫色の着物を着て、健気に雑巾掛けを行っていると、途中で『怒竜』ルビーと出会った。
「ムラが出ないよう、しっかりやって下さい…乾拭きもお願いします。」
「…は、はい。」
「後は…居間、玄関、台所、庭園…離れの方の清掃もやっておいて下さい。私は主の朝食とお弁当を作るべく、買い物に向かうので。」
そう言い残してついさっき、拭いたばかりだった廊下の上を歩き去って行った。
「…っ。」
なんてブラック企業なんでしょう…ですがその分、給料も出してくれるそうですし、『濁竜』サファイアが提示した借金分は働いて返さないと…これも仕事の一環……っ。
「熱っ…しまった、太陽が…!?」
廊下の一部が日光に照らされていた所為で、焼けてしまった左腕の皮膚をさする。
っ、ノエルの体…ものすごく使いにくいです!不死力も、もう…殆ど残ってないというのに。
……
夜。お昼に『濁竜』サファイアが遊びに来た所為で、ろくに出来なかった諸々の作業を終わらせて、吉田先輩という人から貰った梅の花飾りを試しにつけようと、鏡の前で(見えません)悪戦苦闘していると、屋敷の入口前に『性竜』コーラルが立っていた。
「お仕事、お疲れ様でした…んっ//お楽しみの時間ですよ♪」
「……はぁ。少し準備してから行きます。」
「ふぅ…ゆっくり…してきて下さいね?」
朝から晩まで仕事。その後は…察して下さい。そんな、爛れた社畜生活を数日間送りました。
……
…
深夜。ホテルで、イロイロした後…疲れてベットに横になっている私に、花の香りがするお香を焚いて戻ってきた『性竜』コーラルがこう言った。
「…本当にいいんですか?」
「何が?」…とは言わず、呼吸を整える。
「しつこいですよ…何度も言う通り、私は延命する気はありません。」
吸血鬼の飢餓状態から回復する為には…AB型の人間を食べなければならない。無論、そんな事は私はしたくない。ノエルと同じにはなりたくありませんので。
「確か…『フィクストドレイン・タッチ』でしたっけ?その力で延命しているのでは、ありませんか?」
「……。」
一応、ここで言及しておきますが、私が好き好んで毎晩、『性竜』コーラルとヤっている訳ではありません。
これは1日中、武家屋敷の雑用をする体力を補給する為の…言わば、儀式みたいなものですのであしからず。
それに『性竜』コーラルは竜の中で、この体を操っているのが、ノエルではなく私だと事を知っている、唯一の人物。そして『箱庭世界』の事をあまり詳しく知らない、私にとっての貴重な情報源。
ノエルよりも知識がないなんて、堪らなく悔しいどころか最大の屈辱なので、プライドをかなぐり捨てて、付き合ってあげている…という訳です。
……『箱庭世界』外の情報提供も『性竜』コーラルの条件ですしね。
「そう言えば…まだ聞いてませんでしたが、ここにいない方々は元気ですか?」
ここにいない…他の竜の事ですか。
「『終末竜』…いいえ『金竜』ダイヤは、ある男にボコされて以降『異世界アニルア』で巣の中の大量の宝石を眺めながら、隠居生活を送ってます。最近だと、村娘が会いに来てますね。」
「ふふふ…村娘なんて。色恋に無頓着だったのに…何だか微笑ましいですね///」
「『本の虫』…『蔵竜』トパーズだけはちょっと…『第二次竜征伐』以降、何故か『精霊国』にいたらしいという事しか…そこからは行方知れずに……」
「そうですか…あの娘は生存本能だけは、ズバ抜けてますから、きっと何処かで本を読んでは批評して、生きていると思います。」
「『蝕竜』…」
「それは知ってます。昔、オリジナルの私が食べましたから。今は、分離して『飽食亭』で美味しい料理を振る舞っていると、小耳に挟みました。いつか、全員で行きたいですね。」
「…今度は私が質問してもいいですか?」
『性竜』コーラルが、ベットに座る。
「はい。」
「本来ならば…竜に性別という概念はありません。ですが、『怒竜』ルビー、『濁竜』サファイア、『性竜』コーラル。あなた達は雌に該当しますよね。」
「前にも言いましたが…創世と終末を繰り返す果てに、私はどんなものにも適応する能力を手に入れました。これは仮説なのですが、竜の性別は…自身の心境の変化、成長によって変わると思うんです。」
心境の…変化。それに成長ですか。
「自慢げに語りましたが…それを提唱して、初めて無性から性を変えてみせたのが、あの娘…トパーズちゃんなんですけどね…どうかしましたか?」
「…何でもありません。
少し…眠たくなってきました。
「後…もう2つだけ。『箱庭世界』についての話を。」
知らないとは言っても、『秩序神』がプロデュースし、『創造神』が創り上げた事くらいは知っています。
「この世界はどうして…能力に制限がかかっているのですか?」
「………」
今まで丁寧に答えてきた『性竜』コーラルが、初めて、言葉に詰まった様子を見せた。
「…申し訳ありませんが、全貌を教える事が出来ません。しいて理由を上げるとするならば…『そこにいるから』でしょうか。」
「……?」
体を起こし、周囲を見渡しましたが…特に何もありません。
「はい。この質問はおしまいです。もう1つの方は?」
戻って資料を確認すれば分かるとはいえ…何だか、もどかしいですね。
「……もう1つは、どうして【禁】が発動しなかったのか…この世界には黒幕も『人類の敵』もいませんよね?」
「…【禁】?」
おっと…その話はしてませんでしたね。
少女説明中…………
「なるほど…『原初の魔物』という存在が『箱庭』の外にいるのですね。それは知りませんでした。【禁】…それが『原初の魔王』さんの能力の一端だとするならそれもまた、制限されているからでしょう。」
「『原初の魔王』の力ですら、制限してしまうのですか…これはまた…」
つまり…この世界は血液問題さえ解決すれば、無限に永住できる…って、
「ふぁ〜」
あまりの睡魔に、私は欠伸をしてしまう。
「眠いですか?」
「はい…何だか…」
柔らかなベットに転がって、瞼を閉じ…意識がゆっくりと遠のいて————
「……おやすみなさい。」
安らかな気持ちで…生命維持機能が停止した。
……
…
【とまあ…こんな感じでした。とにかくノエルの体が不便で…何も面白くなったです。】
「うん。とりあえず、これだけは言わせて…ルーレットの女神さん、私の意識がないのをいい事に、アンタ…めっちゃ、楽しんでね!?」
【そんな事ありませんよ…あっちではほぼ、仕事しかしてませんし。もしまた『箱庭世界』に行く機会があれば、『怒竜』ルビーとは、会わないように行動して下さいね。】
奴隷として永久奉仕…だっけ?まあ、肝に銘じておくよ。ルーレットの女神が私と違って、炊事洗濯が下手くそなのが知れたし、いい収穫かな。
【…どうして、そう考えたのですか?】
「?いや、だって…話を聞くに、雑巾掛けと各部屋の掃除しかしてないじゃん。」
【…………】
あ。図星だ…気まずっ。
【はぁ…で、どうでしたか、ノエルにとって、『箱庭世界(竜関連)』は。】
うーん。
「何かこう…全体的に忙しかったね!」
【ノエルの小学生以下の感想はさて置いて…ルーレットの針が止まりましたよ。】
今度はゆっくりしたいなぁ。
【次の世界は…『異世界アリミレ』ですか。残念ながら、ノエルはゆっくり出来るような世界ではありませんね。】
ノエルは…って。えぇー…そうやってルーレットの女神はいっつも、私の事煽ったりするけど、流石にもう休みたいよぉ。お願い…たまには、ゆっくりしよ…ね?
【私は別に構いませんが、討伐された『原初の魔王』が、とある凡人によって召喚され、最終的に完全復活を遂げた土地であると言ってもです?】
……?
………??
……………???
え、え、え……え。母様って滅んだんだよね?
【はい。1度は滅びましたが…おやおや、まさか『原初の魔物』であろうノエルが…このことを知らなかっ…】
「しっ…知ってるもん!知ってたもんっ!!」
前言撤回、さっさと行こう、すぐ行こう…!!!!光速…はザクトがよぎるからやめといて…ガンガン行こう!!!
【未だかつてないくらいに、やる気と喜びで満ち満ちていますね…見ていてドン引きです。】
いやいやいやいやいやいやいや……だって!!
これってワンチャン、母様に会えるかもって事だからね!?
———箱庭世界(竜関連)…完。
『異世界アリミレ』へ続く。
……
…
バンッ!!!!
「『吸血鬼王』ノエル…っ、ゲホッ、ゲホッ…何だ、これ…っ!?」
花の香り…だが、これは…明らかに………
「やっと来ましたね。」
「これは…これは何なんだ!?
「とある人から、眠りながら安楽死させるお香を頂きまして。それを焚いてました。飢餓で苦しんでいく姿を見たくはないでしょう?」
眠るように安楽死を遂げた、梅の髪飾りをつけたノエルの銀髪を全裸の少女が優しく撫でる。
「…そうか。」
僕は適当に目についたティッシュボックスを改変。再現した拳銃を構えた。
パチン
『蒐集品の1つさ。そんな事はさておき、私は約束は必ず守る主義でね。悪いけど君はここで死んでもらおうか。』
突如として、テレビの電源がつき、レトロな音楽が流れ始める。音を止めるべく発砲しようとするが……体が言う事を聞かなかった。
『竜はともかく人間にはよく効くものさ。』
体の自由が…
ドクンッ……
——
「……!?」
——さっさとノエルを追ってよ。もしも6日間で見つけられなかったら、責任取って自害して貰うから。
「…はい。」
『……?おかしい。時間的にまだ操れない筈……』
パァン!!!!
僕は、その命令のままに自害するべく、拳銃を口に突っ込み発砲した。
………
……
…
家族も仲間も殺した憎しみの化身である吸血鬼をこの手で鏖殺する。
その過程で人間を辞めて、吸血鬼を殺しては転移する概念的存在と化しても構わない。
その覚悟を持って、僕は神に願った。
吸血鬼の不死力や、『吸血鬼王』ノエルが保有する『不滅』の権能を完全に無力化する
——吸血鬼殺し『ザ・サン』
『討伐権限』によって得た【全ての吸血鬼を滅ぼす力】はそれだけではない。
全ての吸血鬼を滅ぼさない限り…未来永劫、僕に死は訪れない。
『吸血鬼王』ノエルが死に、次の世界に行くのなら、僕も死んで次の世界に行く。
どんな世界へ逃げようと『吸血鬼王』にして真祖である以上…概念的存在となった僕の最初の標的はノエル……お前だ。
次こそは、必ず追い詰めて殺してやる…首を洗って待っていろ。
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