異世界アリミレ

1日目

『異世界アリミレ』…よく知らないけど、母様がいるなら、どんな辺境な場所でも、輝いて見える!!!


【ここはジニヌ帝国ですね。特徴があるとすれば、魔法よりも科学が発展している所でしょうか。目の前の大きな時計塔とか…】


「…ふ、ふふ。」


久方ぶりの夜スタート!!!!幸先が良すぎて笑えてくる…吸血鬼だけど、あまりにも不憫だから、天が…神様が私を祝福してくれてる?


これが…日頃の行いがいいと起こる、ラッキーイベントって奴?奴だよね!!!!


【はぁ。ネガティブでいるのも反応に困りますけど…ハイテンションなノエル程、ウザい奴はそうそういないし、現れないでしょうね。】


ふ。ルーレットの女神の悪口ですら、今の私には効かない。止まらない。何せ、母様と会えるかもしれないんだから!!!!


さあ、いざいざ…前進


「か、か、母様〜♪」


カチャリ


「………?」


はにゃ?何これ。


【ずばり、手錠ですね。】


………


……


「ちち、違うんです。私は…ただの露出魔でして…」


「ぶっちゃけ、そうなら良かったよ。けどな。お前が吸血鬼…それも真祖クラスの上位個体だという事は分かってる。」


「正直、ガッカリだ。」と肩をすくませた。


刑務所っぽい場所に連れてこられたと思ったら、全身くまなく身体検査を受けさせられた挙句、縞々の囚人服を着せられてから、手足を手錠で拘束された状態で、この台詞。


【ふふ。滑稽です…警官とはいえ、ただの一般人如きにやられるなんて…ぷぷ。おっと、失礼、また笑いが…】


!?待って、弁明させて欲しい。あれは手錠の所為で本来の力を発揮出来なかったんだよ。何かこう、体力を吸い上げられてるような感じで…


【はいはい、そうですね。】


ムッキィィィ!!!!マジで覚えとけよ…着々とテメェに対する恨みゲージが、溜まってるかんな!!!!


「この場合、すぐに始末するか…実験生物として生かすかのどっちか…」


「…っ。」


(このままだとヤバいなと察して)私は机に勢いよく頭をぶつけ、全力で懇願する。


「なんだが…お、おい…鼻血出てるぞ。大丈夫か?」


「見逃してくれるなら靴磨きでも、もう何でもします!!!!牢獄の掃除ですか?それとも、休みなしで刑務作業でも…私、全然構いません!!!」


【うわ。プライドの欠片もありませんね。それでも『吸血鬼王』ですか?】


いいんだよ。ここで生存して、母様に会える可能性が1%でも上がるなら…頭なんて、何百回でも下げてやる。


「もうっ…この通りです!!!!」


「中々に魅力的な提案だが、ちゃんと話を聞け。そしたら見逃してやるから。」


「………え。」


私の顔をティッシュで拭きつつ、話を続ける。


「こっちとしては訳が分からないが、このジニヌ帝国に多大な貢献をした英雄様が、お前の事を解放してやれと言ったそうだ。」


ねえ、ルーレットの女神…?私、知り合いに英雄なんて大層立派な人いないんだけど。


【私に聞かないで下さいよ。と言いたい所ですが、少し気になるので、資料を確認…どれどれ……はぁ。そういう事ですか…認めるのは癪ですけど、ラッキーイベント発生ですよ。】


「…ナハハ!!!」


突然、扉が開き…何処かの高校の制服を着た少年が高笑いしながら入って来た。


「な、長野原様…!?王室で待っていても良かったのですよ。」


「いやぁ、何もせずに待つのは非常〜〜に、退屈でありまぁすから!!!!な、の、で、簡素な尋問室に来てみたであります!!!」


「簡っ…!?」


少年が(呆気に取られてた)私を見て微笑むと、ショックで机に突っ伏した警官から鍵を奪い、手足につけられた手錠を解く。


「これでよし!!!それじゃ、行くでありますよ〜」


「え、え…何処に?」


右手を掴まれ、尋問室を出て気の向くままに、刑務所内を歩かされる中…少年は笑った。


「先輩…んんっ。ノエル殿が言う所の…母様?に会いに行くのでありますよね?」


「えっ!?」


何故その事を…!?表情に出てたかな!?!?だとしたら、猛烈に恥ずかしいんだけど。


「?いつ行こうかと、尋問室前でスタンバッてた過程で、大体の話は聞いたであります!!!!盗み聞きしたのは、申し訳ないと思ってるでありますよ?」


「…あぁ、そういう。」


そう言ってる割には、歩くペースが落ちてない。さては…全く反省していないな?


数多の世界を渡り歩いてるから、マイペースな人間とは何千人と出会ったけど…この少年は、一際、異彩を放ってる。


一体、どんな人生を送れば…こんなヤバい奴になるんだろう?


【ノエルも大概だと思いますが…】


刑務所の外に出ると、少年は足を止めた。


「なら、会わせてあげるでありますよ!!吾輩の手下の1人である『怪盗』に巻き込まれた…んん…そう!お詫びに…」


「え。」


今、なんて?聞き間違いじゃなければ、「会わせてあげる」って…言った?


【ええー。普通、そっちに注目します…?やっぱり、何処まで行ってもノエルは所詮、マザコン野郎という訳ですか。】


うっさい黙れ。物事には優先度があるんだよ。


「…行きます。是非、会わせて下さい!!!!」


やったぁ…!!!!!母様に会ったら、何話そっかな〜まずは、母様みたいにとはいかないけど、『心象侵食』が出来るようになった話とか…あ。旅先で、ミミカルと会った話も…



ザザッ———考える時間などいくらでもある。何故この権能を与えたか…次会う時が来れば答えを聞いてやろう。



「分かったであります…じゃあ、早速……船を呼び出して…」


ちょっと待って…私。よくよく考えてみたら…全く答えが用意出来てないんじゃ……


「さあ、亜光速艦『残火のこりび』で、ゴーゴーゴーでありまぁす!!!」


「ちょ、中断…やっぱ、延期…」



——う、あああぁぁあああぁぁあぁーーー!!!! 



男に嫌々連れていかれる寸前…遥か遠くから、叫び声が聞こえた。


心なしか幼い声だったけどそれは、確かに母様の声だったと…考えるまでもなく理解して。


「母様ぁぁぁぁ——————!!!!!!」


「うわっ!?ちょっ…何処に行くのでありますか!?!?」


そんなの決まってるでしょ…今すぐに、母様の元に行くんだよ!!!!あの誰にも頼らない母様が、助けを呼んでるんだよ!?!?


私は少年の手を振り解き、声が聞こえた方向に(吸血鬼パワー全開で)走り出す。


【あの。乗せてもらった方が早いのでは…】


人間は頼れない。自力で辿り着かないと、後で母様にどやされる。


待っていて下さい…母様。すぐに馳せ参じますか……


「ぶべっ!?」


私の視界に急に現れた(何処か見覚えのある)虹色のキセルが首に触れ、そのまま地面に叩きつけられた。


「わぁお、タマ殿!ナイスタイミングであります!!」


「まあ、一宿一飯の恩義があるからな。欲しい物はこの通り買って来てやったが…まさかこんな場所で会う事になるとはな。」


「ノエル殿を知ってるでありますか?」


首からキセルが離れ、意識が遠のく私を見下ろした。


「知ってるも何も………身内だよ。母上大好きっ子な所は相変わらずみたいだが…」


「た、タマ…さ…」


「ふぅ……大人しく今は寝てろ…話は後で聞いてやる。」


キセルを吸うタマさんの話を聞いている内に、私の意識が途切れ、眠りに落ちた。


「で…吾輩、あえてツッコまなかったでありますが、傷だらけで鮮やかな十二単が台無しなことについての説明を要求するであります!」


「これか?帰り際に奇襲を受けてな…瀕死寸前まで追い込んだのはいいが…逃げられた。言動的に標的は、寝てるコイツだ。」


「なぁるほど…であります。よし、連れて行こうであります!!!」


「……いいのか?」


「暇で安全な航路ほど、胸が踊らないものもないでありますからね。それに、先輩…母様に会わせると約束したでありますから。」



























































































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吸血鬼ぶらり旅 蠱毒 暦 @yamayama18

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