8日目

グゥゥゥ〜〜〜


「遂に『詐欺師』と『怒竜』ルビーが『怪盗』古宮ふるみや 新死ししが操る変装を施した人間と激突しました。」


……


「勝敗はどうあれ、『性竜』コーラルが、丘の上にいる『怪盗』の元に到着すれば、この騒動の決着はつくでしょう。そうなれば、ノエルのを巡った争奪戦が再開するんでしょうけど。」


………


「竜3体にモテモテなんて、いいご身分ですね。立派なハーレムですよ。ノエル……ふむ…やっぱり、反応なし…ですか。」


『性竜』のせいで汚れてしまった部屋を家を解体。再構成している間に何があったのやら。


グゥゥゥ〜〜〜


「ノエルの心というか精神を繋げ戻したら、これですよ。はぁ…何故、私が貧弱吸血鬼のノエルの体を操作しなくちゃいけないんですか。」


もう何度目かも分からない本音とため息を吐き出す。


原因はおそらく、吸血鬼の飢餓が関係しているのだろう。さっきからずっとお腹が鳴っているのが、その証拠だ。


「この拘束を解いた所で特別、何かしたい訳でもないですし…私が保有するスキルで外の状況は見ずとも、分かってしまいます。」


ていうか…しれっと使えてますね。ノエルの体で、私のスキルが。


「まあ、どうでもいいですけど。」


さあ、やる事がありません。どうしましょう?この状態はいつまで続くんでしょうか。私はルーレットの女神(?)であって、吸血鬼ではありませんし。


「人間を食べたら解決…するとか?」


試す価値はありますが、ノエルと違って人間を食べる趣味は私にはないですね。あの『性竜』と合流したら、変質した能力の効果的にワンチャン何とか…いいえ。やめておきましょう。


「対価とか言って、もう1試合やらされそうです。もう2度と、したくありません。」


すごく気持ち良かったですが…とは口が裂けても言わない。そう葛藤していると扉が開いて…その姿に私は目をぱちくりした。


「あー。そういえばいましたね。竜相手にフルボッコにされたノエルに因縁がありそうな、哀れな勇者が。」


「み…み、見つけた…ぞ。『吸血鬼王』ノエル!!!」


いいえ、中身違いますけど。


いくら能力の使い方が下手でも、『統一世界』で見た、あの剣は危険ですね。この状態だとワンチャン、ノエルではなく私が殺されてしまうかもしれません。


横倒しなのも結構、ヤバいです…私の本来の体なら何もさせずに瞬殺ですが、これはノエルの体。すぐに拘束を解いたとしても、先手は必ず勇者に取られるでしょう。


はぁ…ノエルを庇って、死ぬつもりはありませんよ、私。


「私は、ノエルでは…」


「お前と…話すつもりはない。消えて…アイツら全員に詫びて来い。」


壊れたアナログテレビに触れると形が変わり、『統一世界』で目撃した、あの剣に変わる。ノエル曰く…あれは



———吸血鬼殺し『ザ・サン』



ノエルらしい、ゴミの様なネーミングセンス。私も何故か恥ずかしくなります。


「…『吸血鬼王』ノエル…と私の事をそう言いましたね?」


「それがどうした?」


1歩、1歩…こちらに近づいてくる。


「あなたは勘違いしている…イレギュラーがあり今は、このような形ですが。」


「……」


聞く耳も持たない…ならば、しょうがありません。私としては、ノエルをビビらせる要素等々で、勇者にはまだ生きていて貰いたいので。


「1つ…アドバイスをしてあげます。このまま能力で、体を変える事にリソースを割いた状態で戦えば…まず、死にますよ?助けを呼ぶ事を推奨します。」


「……」


何も言わずに剣を振り上げましたか。能力はスキルで分かりましたが、資料を読んでないのでどのような経緯があって、そうなったのかまでは知りませんけど…その判断、私は嫌いじゃありませんよ。



——ただ少し…遅かったみたいですけどね。



ガシッ


「……なっ!?」


横倒しの私の首を刎ねようとした剣を、右手を血を滴らせながら、(私の計算通り)ノエルの兄が握っていて…


「お久しぶりです。こうして話すのは『第一次竜征伐』以来ですか。」


「…ふん。察するに、マヌケが飢餓状態で理性を失い、精神に寄生しているお前が表層に現れたといった所か。」


「ええ。」


おおよそ間違ってはいませんが…寄生虫とは、酷い事を言いますね。そう思っていると左手を手刀の形にして、私の拘束を解いた。


「その気配…ノエルと似て…」


「黙れ…不愉快だ。」


その一言だけで、勇者の剣を持つ手が僅かに震え、私の鼻から血が出る。


私は特に何も感じませんけど、ノエルの肉体は本当に貧弱なんだなと思い知らせれました。


「コレについて…何か知ってるか?」


「私は知りませんよ。ノエルなら知ってるでしょうが、何やら因縁があるっぽいです。」


「因縁…?」


ノエルの兄は初めて勇者の方を見た。


「おい、質問に答えろ。蛆虫と何があった?」


「…それを教える道理はない。」


「そうか…あくまでもシラを切るか。ならば、無力化した後、尋問してやるまでだ。」


そう言うと、そのまま剣を握り潰した。


「…!?」


大きく息を吸い込んで何をするのかを察した私は、全力で両手で耳を塞ぐ。勇者は警戒して、距離を取ろうとするが…もう遅い。


「お前がぁぁぁぁぁ!!!!!ノエルの純潔をぉぉ奪った事をなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ————!!!!!!」



キィィィィィィィィィイィィイィイイィン!!!!!!!



「ぁ…っ、くぁ…」


(不意打ちだと私ですら気絶する)『超音波』で、四方の壁が消し飛び、館が崩壊する中…全身から鮮血を撒き散らし、白目を剥いてよろける勇者目掛けて、まだ再生しきっていない血塗れの拳を放ち、星空の煌めく夜空へ打ち上げた。


「ご…ぶぇ!?」


そして、嘔吐しながら意識が戻った勇者を空中で、顔面以外を容赦無く殴り続ける。


それなりに勇者も戦えてはいるみたいですけど、右腕が千切れ飛び、左足はあらぬ方向に曲がったりで…かなり苦戦しているようですね。


ノエルの兄が近接型なら、ノエルは支援型。ここで私が参戦すれば、間違いなく勇者は負かせますが…


「とりあえず…避難しますか。」


2人が戦ってる最中、探索して、何とか形が残る大きな階段を発見。館を出てため息をついた。


「2人で1体の『原初の魔物』。『吸血鬼王』ノエル…まとめて相手するのは、いくら私でも骨が折れそうです。」


まだ、勇者は生きているといいのです…


「…が?」


上から何かが落下しめ、目の前の地面が爆散する。土埃が舞い、どうせ勇者だろうと思っていた私は思わず、目を見開いた。


「あの状態で…負けたのですか?」


「………」


頭から地面に突き刺さっていた勇者…否、ノエルの兄が、「ズボッ」っという音と共に、地面から顔を出した。


「負けてはいない…ただ、時間なだけだ。」


「え…まだ5分も経ってないですよ?」


よくよく見ると、ノエルの兄の体が半透明になって消えかけていて…『箱庭世界』故に、『召集』の呼び出し時間もかなり短くなっているんだとすぐに検討がついた。


「はぁ。本当に厄介ですね…この世界は。」


ノエルの兄が消え、さっきよりも更にボロボロになり、呼吸するのも辛そうな勇者が私の目の前に着地。変色した左手で持った剣をこちらに向けた。


「その執念には感服します。けれど…それは、ノエルに向けてあげて、今回は大人しく退場してくれると助かります。」


「!瞳の色が…」


………


「…んぅ。異邦の怪物…異端の勇者…囚われの竜が、アタシの中で、のたうち回っている…ククッ…ククク……へへ…へっ、へっっくしゅんっ!!!!」


「また起きたのか…っ…病人なんだから、早く寝てろ!」


………


これは、私が使えるスキルの1つ…とでも言ったら、何だかノエルの二番煎じみたいで癪ですね…ん。この気配は……


「戻った…?っ。逃げるか!」


「はい。逃げた方がいいですよ…あなたが、」



ボキメキバキメキバキィ——!!!!!!



突如、勇者の真横から現れた着物の少女…『怒竜』ルビーのタックルを喰らい、全身の骨がへし折れる音をたてながら、木々を倒し、ぶっ飛んで行った。


「ふぅ…スッキリしたっ。」


一瞬だけ少女らしい笑顔を見せたが、元の表情に戻り、私の方を見る。


「帰りますよ…奴隷。主が待ってますから。」


遠くから、残りの竜達がこちらに来てますね。少しだけしか目を離していないというのに。どれどれ…


『怪盗』は『性竜』コーラルと交渉した後に、撤退(ええ!?)釈然としませんが…流石に内容までは見る暇ないですね。それを選ぶくらいの何かを得た…という事でしょうか。


『詐欺師』はというと、第1の館にいた『性竜』コーラルの餌と一緒に、この森を離脱したようです…はぁ。



逃走者は私1人。追う側は3人。夜の森の中…第二ラウンド開始という訳ですか。



当事者でさえなければ、ポテチを食べつつ、ノエルを揶揄って楽しめるのに…私がそちら側なんて、全く心が躍りませんよ。






















































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