2日目〜39日目
洞窟での会話…その1
「ねえ、『精霊の森』を統治してる奴っているの?」
【…『精霊王』オルン。大戦によって他種族が死に絶え疲弊する中、ただ1人を除き、結果的に少数の犠牲すらも出さず、精霊達を新たな新天地へと送り出す事に成功した…大戦において、唯一の勝者とも言える人物です。】
「ほへぇ…賢そう。」
【はぁ…故に、ノエルと比べるのが烏滸がましいくらいの危険人物だと私は考察します。接触は絶対に、避けた方がいいでしょう…いいですか、絶対にです。】
この女神、2度同じ事言ったよ…私、バカって思われてる?結構、記憶力はいい方だよ?
【…形はどうあれ『精霊の森』に入った以上、こちらの動向に、気づいているかもしれ…】
「まっさかー。それよりも、私…大戦ってのが気になったから、それを教えてよ。」
【…忘れないで下さいね。】
……
ああもうっ…叶うなら、つい数時間、呑気に床で転がってた私を殴りたい——!!!
「おや。何か気に触るような事を言ったかな?キミの要望通り、端的にまとめたつもりだったんだけど……」
「…っ。」
私こそが、母様によって生み出された『原初の魔物』が1体…『吸血鬼王』ノエル(キリッ)!!!
うん、言える訳ない…でも、このまま黙秘権を行使していたら、訝しまれるのがオチだ…こうなったら仕方ない。
「…私は、ノエル。」
「ノエル…聞かない名前だね。種族は?見た限り頭上に特徴的な光輪がないから、天使ではなさそうだ…なら人間?悪魔?まさか神かい?」
私は深呼吸して、やる覚悟を決めた。
「に、にっ…人間…です。大陸を、旅している途中で追い剥ぎに遭って、ギリギリで逃げたんですけど…道に迷って…こ、こ、殺さないで下さいっ…『精霊王』様っ!!!」
私は肩を小刻みに振るわせ、涙声(80%演技)で彼に訴える。自身を人間と偽るのは屈辱の極みだけど…この際、背に腹は変えられない。
とにかく私は敵ではない。様々な世界を旅をして…色んな知見を得て、いつか母様がした問いに答えたい。
——その一心で、私はここにいる。
しばらくして、黙っていた彼は口を開けた。
「うん…キミの事は、おおよそ理解したよ。」
右肩から手を離し、私は後ろを振り返る。
そこには、ツヤがある黒髪…黒曜石色の王冠をつけ、白色のTシャツを着て、泥で滲んだような蒼色の瞳が特徴的な顔立ちの整った、青年が立っていた。
「おほん…まずは、謝罪をさせて欲しい。森の外は今、物騒な事になっているからとはいえ…異邦からわざわざ来てくれた旅人達に対して失礼な事をしてしまった。これは精霊の王として、あるまじき行いだ。」
そう言うと、すぐに頭を下げた。
「え、あ…その。」
「ああ、分かっているとも!謝罪した所で、一時的に、謝る対象の心が満たされるだけ。それじゃあいけない…だから私はキミにこれを送ろうと思う。」
私が動揺している間に、青年…『精霊王』は何処からか緑色で、小さな葉っぱの形をしたバッジを取り出していた。
「精霊国に向かっているんだろう?これをそこに住まう精霊達に見せれば、『精霊王』の貴賓として扱われる。衣食住は勿論、学校でも城でも何でも、好きな場所を観光出来るよ。」
「デジマ!?」
「その言葉の意味だけは、よく分からないけれど、『精霊王』に二言なし…ってね。何か困ったら城に行くといいよ。」
凄え、太っ腹過ぎる…!!いや、でも…
「…何を悩んでいるのかな?」
「あっ!?え、えーと…『精霊王』様。」
「あはは…オルンでいいよ。みっともない醜態を晒してしまったし、もうキミとは友人の仲さ。」
チラッ
「…そのぅ…精霊国までの距離が遠くて、歓迎される前に、野垂れ死んじゃうというかぁ『精霊王』様…そこも何とか出来たりとかは…」
チラッチラッ
私は、脳裏に閃いた恐ろしい(稚拙)な交渉を行おうとするが、オルンはキョトンとした表情でこう言った。
「行くも何も、もう着いてるじゃないか。」
「…えっ?」
……
…
「あ…あれ?」
【よく歩き切りましたね。無言になった時は遂に、ぶっ壊れたのかと45%くらい心配しましたが…成程、ここが精霊国…ノエル、何を持っているんですか??】
左手には確かに、オルンから貰ったバッジが握られていて…木で出来ている門の上部には墨か何かで【精霊国】と大きく書かれてあった。
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