精霊の森
1日目
パチパチパチ……
『精霊の森』…どうせ陰気でロクな場所じゃないと、を覚悟はしていたけど…裸でも丁度いい気温じゃないか。そ、れ、に…
【あの…】
木々が風によって揺れる音。リスといった小動物達の声…遠くからは川のせせらぎが聞こえてきて…何かが焼ける匂いがする。
【ノエル。】
「すぅぅぅぅぅぅ———」
私は新鮮な空気を胸いっぱいに吸って、清々しい気持ちで目を開けた。そこはきっと…前回のように死体が山積みって訳じゃない。人間では不可能な、自然の摂理に則った、美しくもあり残酷な楽園が……
【…勝手に思いを馳せるのは別に構いませんけど、早く日陰に行かないと死にますよ?】
「あ、うぁっち!?この肉が焼ける匂い、私じゃん…熱っ…し、死ぬ…具体的に言えば後3分くらいで…」
【少し驚きました。意外と耐えれるのですね。】
「こ、こんなの…でも『原初の魔物』だから…ねっ…熱っ、痛っ…マジ日陰、どこどこどこどこどこぉ!?!?!?」
視界が真っ赤に燃えていて、何も見えず足踏みをする。こうなったら適当に動くしか…
【ここから真っ直ぐ…約5m先に丁度いい、洞窟が…】
「急げェ!!!!」
……
洞窟にたどり着いた私は、冷んやりとした地面に、大の字で倒れた。
「床…冷んやりして気持ちいい〜あー…し、死ぬかと思ったぁ…」
確かにこれは、ルーレットの女神の幻聴のお陰で助かったかもしれない。また会ったら、少しは態度を改めてあげても…
【失礼ですね…初っ端から日光に焼かれて、脳みそごとイカレましたか?】
「……。」
にしても中々、再現度が高いなぁ…よく会ってるからだろうか。
【ノエル。】
「冗談。ちゃんと覚えてるよ…旅先を勝手に決めてた君が、案内役兼解説役として、私に同行してくれるってね。」
【ならいいです。】
私は辺りを見渡したが、それらしき人物はやはりいない…という事は。
【ええ。ノエルの読み通り、私はこの世界にはいません。そして、私の声もノエルにしか届かないように、調整しています。】
「…ふぅん。」
理解している風を装いつつも、意味わかんねーと思っていたら、私の心の内を知ってたかのように、ルーレットの女神は補足を入れる。
【まるで理解してなさそうなので、今風に分かりやすく言うならば…リモートワークをしていると考えてくれたら。】
「あぁ、成程ね!そんな事できるんだ…流石、ルーレットの女神様はやる事は違うねぇ。」
【私は……まあいいです。今は仕事を優先しましょう。】
そうそう!聞きたかったんだ。私がいる『精霊の森』について。
「ねえ。私の記憶が正しければさ…母様から私達が生まれた時点で、『精霊の森』は消滅してなかったっけ?」
【…正確に言えば、大戦末期にある人物によって大陸は崩壊。それに巻き込まれた形です。】
大戦…母様は知ってたっぽいけど、結局教えてくれなかったしなぁ。あの頃は、まだ世話役をしてた頃かぁ。懐かし……
私は体を起こした。
「ねえ、ルーレットの女神。」
【何か。】
「『精霊の森』があるこの世界って…私から見て、過去の世界って事?」
【…そうなりますね。】
待って。つまり…上手く生き残れれば、昔の母様に会えるって事じゃ……
【無理ですよ。】
「な、なぁ…っ!?まだ、質問してないのに!?!?」
【今回、指定されたのは『精霊の森』…その外に出る事は出来ません。】
「え。この外に…母様はいるの?」
【重ねて言いますが、無理ですよ…二重の意味で。】
その後、こうしてルーレットの女神に、適当に質問を投げかけて、時間を潰した。
……
夜。さあ、吸血鬼の活動時間がやって来た。肉体の再生は済んだ…あちこちに、火傷跡が残ってしまったけどね。
「さぁて…この洞窟ともおさらばかな。」
まずは現地民(この場合、精霊なのかな?)を見つける所からだろう。
【ここから東側に40000km進めば、精霊族達が暮らす精霊国があります。】
「へー、40000kmね。」
あ、ありり?一般的な地球なら、1周する距離じゃなかったっけ??
「『精霊の森』広っ!?」
【無限に続く大陸の約7割が『精霊の森』で構成されていたと言われていますから。】
——ブツッ
これが【無理ですよ。】の理由か。悔しいけど、母様に会う前に餓死コース一直線だ。
もう一つの理由は分からず仕舞いだけど…母様に会えないって分かったし、どうでもいっか。
「…霧が不気味なくらいに発生してて、方向感覚が分からなくなりそうだなぁ。」
環境は完璧だけど、未だに裸だから普通に夜風とかが寒い…ん?あれは、人魂…光…いや、ランタンかな?
「よく見えないけど…行ってみますか!」
私はその方向に向かって、走ろうとして…右肩に誰かの手が置かれた。
「そっちは危ないよ。」
反射的に、私は後ろを向こうとするけど…体が全く言う事を聞かなかった。
「あぁ…自己紹介が遅れたね。私は、オルン…ただの『精霊王』さ。」
「オルッ!?…いいえ、何デモナイアルヨ。」
朝、ルーレットの女神が…言ってた、あの!?後ろ向けないから、姿形は分かんないけど。
「…?立場上、キミ達に質問したい事があって、こうして魔法を使って、夢の世界に招いたんだ。」
優しげな青年の声。でも何故か…歪に聞こえる。何故だろう?少なくとも、さっきまで聞こえてたルーレットの女神の声が聞こえないから…夢の世界というか、別世界にいるのは確実なんだけど……んー。心臓ヤバいな。
「……もう1人の方は、上手く来られなかったようだけどね。」
「んん?何か言った??」
「ただの独り言さ。では早速問おうっ!!!…でいいのかな?口下手でごめんね。ある程度、慣れたら平気なんだけど…普段、私は魔法の研究ばかりしてて、意思疎通が苦手なんだ。」
「へぇ…悪いけど、案内役兼解説役を待たせてるのでね。さっさと、要件を済ませてくれると助かるな。」
「ん…そうかい。」
軽く咳払いをした後…軽い口調で、私に問いを投げた。
「キミ何者?」
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